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「生煮え」の部分が多すぎる入管法改正案

一時的な「労働力の補充」より、共に生きる社会の構築を

田中宝紀 NPO法人青少年自立援助センター  定住外国人子弟支援事業部・事業責任者

日本語を学ぶ定住外国人の若者-将来、日本で活躍したいと願う者も少なくない

 2018年10月24日に臨時国会が開会し、以後、入管法改正案を巡って議論が紛糾する場面がたびたび見られています。連日、メディアでもこの問題に関連した多種多様な論点が報じられており、これほど社会が「外国人人材」を取り巻く諸課題に目を向けるのは筆者が知る限りは初めてのことです。それだけ、この問題が今後の日本社会にとって大きな転換点であり、社会全体にその影響を及ぼし得る重要なものであると言えます。

 「入管法改正案」には、少子高齢化による人手不足が深刻化する中「外国人人材の単純労働分野での就労」可能とする「特定技能1号」および「特定技能2号」といった新たな在留資格の創設や、現在の入国管理局を「出入国在留管理庁」へ格上げすることなどが盛り込まれています。

 新たに創設予定の在留資格である「特定技能1号」は、「相当程度の知識または経験を要する技能」を持つ人を対象として、技能と日本語の試験を実施し、5年間の期限付きで就労許可を出すもので現在、農業や宿泊、外食などの14分野が受け入れ分野として検討されています。また、3年以上の経験を持つ技能実習生は試験を受けずに特定技能1号へ移行できるとしていますが、家族を呼び寄せ日本で共に暮らす事はできません。

 一方で、「特定技能2号」はより熟練した技能を持つ人材に在留期限の更新が可能であり、家族の帯同も認められるとされています。現在、この特定技能2号での受け入れ想定業種は建設と造船のみですが、5業種程度まで広がるのではといった見方も出ています。いずれにせよ、受入れ分野の決定は法案成立後の省令により定めるとされており、まだ二転三転の余地を残しています。

「生煮え」「がらんどう」の法案

 この入管法改正案については、今臨時国会開催前後より法案の中身が「生煮え」、あるいは「がらんどう」であるといった批判が相次ぎました。現在、入管法改正案で示されているのは新たな在留資格の創設と入国管理局を格上げするという枠組みについてであり、対象となる単純労働分野をどのように定めるのか、外国人人材受け入れの前提となるはずの、「どの分野がどの程度人手不足であるのか」を判断する方法や、受け入れる人材に求める「相当程度の知識や経験」をどう定めるのかなどといった、この制度の内容の大半を法案設立後に法務省令などで定めることとしているためです。

 今年の春ごろに、政府が外国人の単純労働分野就労についての検討を始めたと報じられた時点では、対象となる分野は「5分野程度」とされていました。しかし、その後業界団体などによる働きかけが相次ぎ、あっという間に特定技能1号では14分野、というところまで膨れ上がってしまいました。こうした流動的すぎる事態は、法案の中身を後回しにしていることの一つの顕著な事例であると言え、省令次第では外国人人材が雇用の調整弁として使われることへの懸念が残ります。

技能実習制度の延長策であってはならない

 政府は、特定技能1号および2号はあくまでもこれまでの外国人就労受け入れの機会を拡大したもの、との立場ですが、一方で平成31年度からの5年間で受け入れを見込む最大約34万人5千人の内、約45%は技能実習生からの移行を想定していることも明らかとなり、技能実習生制度の延長策であるとの誹(そし)りを免れません。

 すでに多くの方がご存じである通り、技能実習制度は「現代の奴隷制度」とも揶揄され、本来の建前であった「開発途上国への技術移転を目的とした国際協力」はすでに崩れ落ちた状態にあります。安価な労働力の供給源として長時間労働、残業代不払い、不当な搾取や暴力など非人道的な待遇の実態とそれに耐えかねた失踪者の数の多さは、連日のメディアの報道によって注目を集めているところです。

 昨年法務省が調査を行った際には約7割の実習生受け入れ機関において何らかの法令違反があることがわかっています。管理監督の仕組みが行き届かず、人権を無視した労働環境が横行するこの実態が「特定技能」に引き継がれていけば、さらなる問題の温床となり、日本の国際的な信用にも影響を及ぼしかねません。しかし、現時点では技能実習制度で生じた問題と同様の問題をどのように防止するのか、政府はいわゆる「骨太の方針2018」において、「対策を講じる」としているものの、その具体的な方策は省令等にゆだねられている不透明な状況の中、実質何も改善されないのではないかといった疑念を拭い去ることはできません。

 また、技能実習生が3年間の技能実習を終え、そのまま特定技能1号へ移行した場合にはいずれも家族の帯同は認められない資格ですから、約8年間もの間、家族と共に暮らすことができないという事態が発生します。技能実習生や外国人人材には当然のことながら「働き盛りの若者」が多く含まれ、

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