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発達障害児の非凡な才能

役に立とうと立つまいと、のびのび育てることが大切

松永正訓 小児外科医・作家

水流音だけで便器の型番を当てる勇太君

拡大写真2
 そして勇太君にはトイレに関してもう一つの才能があります(写真2)。トイレの水流を動画に残すことが彼の大切な趣味です。勇太君のスマートフォンには便器のサムネイルがずらり並んでいます。画面を見ずにスマートフォンに耳を当てた状態で、私が画面をタップして動画を再生させると、「ゴゴー、ガバガバガバ」という水流音が聞こえます。勇太君はその音を聞くだけで画面を見ずに便器の型番を当てることができるのです。

 記憶力だけでなく、音に対しても非常に繊細な才能があると言えます。

 勇太君が初めて「知的障害を伴う自閉症」と診断されたのは、彼が2歳4カ月の時です。お母さまは、その病名を受け入れるまで1年以上かかり、そして障害を持った我が子を育てていこうと前向きに考えるまで何年もの時間がかかりました。

 そんなうつうつとしていた時、お母さまはテレビで作家の大江健三郎の息子・光さんの姿を見ます。光さんは知的障害がありながらも音楽のセンスがあり、11歳でピアノを始め、13歳で作曲を始めます。日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞するなど、非凡な才能を発揮していました。

絶対音感はあっても、音楽そのものは好きでなかった

 自閉症児には特異な才能を持つ子がいると知っていたお母さまは、光さんのピアノを弾く颯爽たる姿を見て、「これだ! 勇太もできるもしれない!」と舞い上がってしまいました。そこで、東京で一番レベルの高い音楽教室を探しました。それは一音会と言いました。早速入学手続きを取り、1時間半をかけて通うようになります。

 一音会では絶対音感の習得に力を入れていました。そのために先生がピアノで和音(複数の音を同時に奏でたもの)を弾き、その和音に応じた旗を子どもの前に並べて置きます。和音の種類は全部で14種類。先生が和音を弾いて、子どもが正しい旗を上げるのです。

 絶対音感の習得には最低でも1年、普通は2年を要するそうです。勇太君は、わずか2カ月でマスターしました。先生からは「これまで指導した生徒の中で一番早い」と驚かれたそうです。

 お母さまは、「この才能を伸ばしてあげたい! 将来はテレビに出られるかも!」と有頂天になり、30万円もするアップライトピアノを買ったそうです。ピアノ置き場を確保するためにベッドも処分しました。ところが勇太君は

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筆者

松永正訓

松永正訓(まつなが・ただし) 小児外科医・作家

1961年、東京都生まれ。1987年、千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。日本小児外科学会より会長特別表彰(1991年)など受賞歴多数。2006年より、「松永クリニック小児科・小児外科」院長。 『運命の子 トリソミー』(小学館)にて2013年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。 『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)にて2019年、第8回日本医学ジャーナリスト協会賞・大賞を受賞。 最近の著書に『いのちは輝く わが子の障害を受け入れるとき』(中央公論新社)、『小児科医が伝える オンリーワンの花を咲かせる子育て』(文藝春秋)、『発達障害 最初の一歩』(中央公論新社)がある。

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