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ゴーン事件 「国策案件」が生んだ捜査のゆがみ

五十嵐二葉 弁護士

退職後の双務契約や報酬はその年度の報酬か

 「重要な事項」論点で、日本の公判裁判所がもし検察の側に立ったとして、それを前提にしても、問題がなくなるわけではない。問題は山積みだが、主なものを2~3あげてみよう。

 まず、報道の中で最も量が多いのが、報告書に記載した年間10億円の報酬以外に、年度によって違うが約10億円などを、どういう形で受け取ることになっていたのかで、それによって、将来退職時に受け取るとしても、その年度の報酬とみなして報告書に記載するべきか、の問題になるという検察がとっている解釈だ。

 報道されたものを検討してみよう。「差額」をたとえばそのための固有の口座などに年分ごとにすべて積み立ていたのなら実際に支払われていなくともその年度の支出となるという考えも成り立つが、「日産は退任後の報酬を積み立ておらず」(12月1日付毎日新聞)と報じられている。退職後現金で受け取る約束であっても、将来退職した際の退職金の額を約束したことだから、その年度の支出である「報酬」として報告書に書く必要はない。どの会社でもそうしているだろう。

 支払額が確定していたかどうかが、問題の中心のように報道されているが、退職金の金額をあらかじめ確定していても、その年度に支払っていないものを報告書に書いている会社はないだろう。法も求めていない。

 「絵画で受け取る」との報道もあった。これも同様に、退職に伴う贈与あるいは報酬であって、その年度に買っていれば経費として計上するが、買っていない限り、記載するべき報酬とは言えない。

 退職後に「コンサルタント契約、競合他社に再就職しない契約」などの名目で支払われる約束になっていたとの報道もあった。民事債権法の観点からみれば、支払い約束は、会社がゴーン氏に対して金銭債務を負い、ゴーン氏側にも「コンサルタントをする」「競合他社に再就職しない」などの民事上の義務(債務)が生じる、それは「退職」を効力発生にかからせる停止条件付双務契約であって、その金額の約束は、その年度の役員報酬とは関係なく、当然報告書に記載する義務はない。

 報告書に記載した年間10億円以外に受け取る額があまりにも多すぎるという評価と、それを当該年度の報酬とみなすかどうかは、まったく別の問題だが、メディアも感情的に混同していると見える。

 当該年度の報酬額の一部を隠す意図が「報告書を提出する義務」を負う者(法5条による報告書を提出すべき者=会社・日産、と法207条で、その「代表者、使用人その他の従業者」法人である日産、その虚偽記載を処罰される同社の「代表者、使用人その他の従業者」)に、もしあったとしても、法的にその受け取る当該年度の報酬と評価できないなら、「隠された意図」とは別に、虚偽記載ではない。

 役員報酬は総額を株主総会で報告するが、個々の役員に支払う金額は取締役会で決める。

 もしこれを虚偽記載とするなら、単にそのからくりを練ったと言われている秘書室幹部だけではなく、当該年度の報酬額とは別に退職後に上記のような形で、残額相当分をゴーン氏が受け取ることを是認していた役員らは全員虚偽記載の共犯者になる。報道の中には、ゴーン会長の報酬は、本人、ケリー氏、西川氏の3人で決めていたというものもあった。決めてはいなくとも、他の役員が知らなかったということはないだろう。知っていて異議を言わずに容認していたのなら共犯になる。

 多額の退職後報酬を受け取るかどうかが、虚偽記載に当たるのではなく、また受け取る者だけが虚偽記載者ではないという当然の事理を、特捜部は知ってか知らずか。そして加熱した報道はそこを見ないようだ。

検察が起訴するのはほかに誰か

 その事実を法に則してみればこうなる。197条罰則は「重要な事項につき虚偽の記載のあるものを提出した者」が対象だ。「提出した者」とは日産で、両罰規定である207条で前記の通りで、法定刑は、法人である日産は7億円以下の罰金刑、事実上虚偽記載のある報告書を作成した個人らは10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、又はその併科となっている。

 検察は12月10日にゴーン氏と法人である日産を起訴すると発表し、それまで発表していなかった、司法取引において検察に協力した密告者(スニッチ〈snitch〉刑事訴訟法の条文上では「被疑者又は被告人」)は「秘書室幹部」だったと報じられた(朝日新聞12月11日付)。

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筆者

五十嵐二葉

五十嵐二葉(いがらし・ふたば) 弁護士

1932年生まれ。68年弁護士登録。山梨学院大学大学院法務研究科専任教授などを歴任。著書に「刑事訴訟法を実践する」など。

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