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ゴーン氏勾留延長却下が大ニュースになる特殊な国

五十嵐二葉 弁護士

日産のカルロス・ゴーン前会長が勾留されている東京拘置所前には多くの報道陣が集まった=2018年12月21日午前9時18分
 12月20日正午過ぎ、東京地裁が、日産自動車前会長のカルロス・ゴーン氏らに対する地検の勾留延長を却下したとのニュースがテレビで流れた。NHKは「極めて異例」と報じ、メディアは大騒ぎになり、東京検察庁合同庁舎の前、東京拘置所前、日産本社前も取材陣であふれた。

 NHKは「極めて異例」と何度も言ったが、実はこれが法律上の原則なのであって、異例なのではない。

 刑事訴訟法は、起訴前勾留は10日以内、延長は裁判所が「やむを得ない事由があると認める」ときにだけ「通じて十日を超えることができない」範囲で決定できる(208条2項)にすぎない。

外国ではありえない逮捕・勾留の繰り返し

 もともとゴーン氏らへの被疑事実は、金融商品取引法の有価証券報告書の虚偽記載という行政犯・形式犯であって、しかも地検が、すでに11月19日の逮捕時から虚偽記載の期間として記者発表してきた2010年度から18年度分のうち、11年3月期から15年3月期までのみ(10年度分は公訴時効にかかっている)を最初の逮捕・勾留の被疑事実として使って、逮捕2日、勾留10日、延長勾留10日として、12月10日に起訴した上で、残しておいた16年3月期から18年3月期までの虚偽記載を被疑事実として、地裁から再度12月20日まで勾留決定を取ったことは、被疑事実を分けて、逮捕・勾留を繰り返して、事実上拘束期間を長引かせる「セパレート・チャージ」という、日本では日常的に行われているが、外国ではありえない、問題のあるやり方だったのだ。

 すでに再逮捕の日に記者会見した久木元伸東京地検次席検事には、「海外メディアから『同じ虚偽記載の容疑なら(再逮捕せず)合わせて起訴すればよかったのではないか』など勾留期間を疑問視する質問が相次いだ」(12月11日読売新聞)のだったが、20日、NHKは、フランスの経済紙レゼコーが、出来るだけ長く拘禁するために再逮捕を繰り返していると報じたと伝えていて、これが一般的な外国での見方だ。

 しかしこのとき、東京地裁は検察官の要求通りに勾留決定をして、弁護側の準抗告も却下している。筆者は、これでは日本の司法、裁判所が、世界から批判を浴び、信頼をなくすことになると思った。

 だが、これが日本の裁判所の普通のやり方だから、日本のメディアは(実は多くの日本の法曹も)おかしいと思わない。法律が例外としている勾留延長を、裁判所が法律通りに却下すると「極めて異例」とメディアが大騒ぎする、日本はそういう国なのだ。

外国世論が日本の司法を是正したか

 ゴーン氏逮捕以来、外国の反応は厳しかった。

 フランスのマクロン大統領は、11月30日にアルゼンチンで開かれたG20の会場で安倍首相と会談した。安倍首相が語らなかったので、日本では報じられなかったが、朝日新聞は在パリ記者報として「仏大統領府によると、マクロン大統領は安倍首相に、ゴーン前会長の司法手続きが『きちんと進められる』ことへの確認を求めたという」と記事にした(12月2日付)。

 東京拘置所に収監されたゴーン氏には、直後にフランス、次いでブラジル、レバノンの各駐日大使が面会に行っている。

 ゴーン氏の両親の出身国で、ゴーン氏も少年期に住んでいたという「レバノンのバシル外相が27日駐レバノンの山口又宏日本大使を呼び出して懸念を伝え」「『レバノン政府は捜査に強い関心を持っている』と伝え」「ゴーン氏の拘束には多くの疑問点があるとして『透明で法律に則した捜査が行われているか、フランスなど関係国と共に確認する』と述べ、事件についての説明も求めたという」(11月29日付読売新聞 カイロからの特派員報道として)

 日本人がフランスで逮捕されても日本の首相が相手国大統領にじきじき「司法手続きが『きちんと進められる』ことへの確認を求める」ことはないだろう。

 外交上異例の批判に加えて、フランスのメディアをはじめ、他の国のメディアも、逮捕当初から繰り返し日本の刑事手続きを批判し、日本のメディアがそれを伝聞で伝えた。

 「フランスのメディアは21日『弁護士が事情聴取に立ち会えず(当面は)家族との面会もままならない』と一斉に報じた」など(11月28日毎日新聞「仏紙勾留条件を批判」)「仏紙フィガロは「『ひどい拘置所に移された』……『地獄だ』と伝えた」(11月24日朝日新聞)「『カルロス・ゴーンは日本ではテロリストより厳しく扱われている』。フランスのテレビ番組では、出演者からこうしたコメントも出た」(11月28日毎日新聞夕刊)。

 フランスばかりでなく、利害関係のない国を含めて、メディアの厳しい批判が続いていた。

 米紙ウォールストリート・ジャーナルが、11月27日「日本の司法制度のあり方や、逮捕に至るまでの日産の対応に疑問を呈した」社説を掲載した。「厳しい尋問を意味する」inquisitionという表現を使い『The Gohsn inquisition』と題された」社説で、「逮捕後起訴されずに勾留され、弁護士の同席なしに尋問を受けているとして『共産主義の中国の出来事か? 資本主義の日本だ』と皮肉った」(11月29日付読売新聞)。

 inquisitionを読売新聞は「厳しい尋問」と訳したが、もともとは「針の部屋」など死者も出た中世の異端審問のことで、今では拷問の意味で使われる。

 東京地裁の勾留延長却下決定は、これらの外国の反応が影響を与えた結果だったのだろうか。

裁判所は保釈を許可できるか

 勾留延長却下決定で、未決勾留はなくなり、「虚偽記載」5年分の10日の起訴と、3年分の20日の起訴との二件の起訴後の勾留になった。日本は起訴前の勾留には保釈ができない、保釈という制度そのものが無い、という近代司法の国とは言えない制度だ。

 日本は外国メディアも最近は言うようになった「人質司法」の国だ。

 起訴後保釈請求の権利は発生すると言っても、

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