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箱根駅伝9位の拓大のキャプテンはエチオピア出身

東海大ラグビー部主将はトンガからの留学生、大所帯を仕切る外国人リーダー

増島みどり スポーツライター

 往路は東洋大、復路は優勝候補筆頭だった青山学院大が奪回し、しかし総合優勝は初めてとなる東海大と、3校がしのぎを削った95回箱根駅伝(2、3日往復217.1キロ10区間)は最後の最後までスリリングな展開にもつれ込んだ。95回の歴史でも、往復で優勝をせず総合優勝を果たしたのは、東海大がわずかに8例目であり、3校ともがいかにレベルの高い走りを見せたかを示している。

 目の離せないレースに、ファンもテレビに釘付けになったようだ。晴天に恵まれた2、3日にもかかわらず、視聴率も往復平均31%超えと、こちらも歴代1位をマークしたという。

 東洋大は往路の、青学大は復路の、東海大は総合で、3校それぞれが大会新記録を樹立したほか、山下りの6区を含む5区間で記録が更新されるなど、平成最後となった今回は、新時代の幕開けにふさわしい追い風が吹き抜けた大会となったようだ。

拡大拓大の岡田正裕監督(左)とデレセ主将=2018年5月31日、東京都調布市の拓大クラブハウス
 実は、新記録のほかにも、陸上競技だけではなく、日本社会の近未来をもリードするような大きなチャレンジがあった。1921年の創部以来初めてとなる、2年連続でのシード権(予選会なく来年の箱根駅伝に出場できる10位まで)獲得を果たした9位・拓殖大の駅伝チームのキャプテンは、エチオピア人のワークナー・デレセ(4年、2区6位)である。

 箱根の歴史のなかでも外国人留学生の主将は例がないとされ、73歳の岡田正裕監督から指名された2018年年頭には尻込みをし、一度は「無理だ」と断ったという。

 「言葉ができないですから私には無理と言いました。でも監督は、お前に任せましたと言って、だから頑張ろうと思いました」

 首都アディスアベバの高校に通っていた際、日本で仕事をした経験のあるコーチと出会い、以前から憧れていた日本行きをかなえた。しかし日本とエチオピアの間には陸上でのパイプはなく、同国のランナーはほとんどいない。

 平成に入って定着したケニア人留学生のように、高校から社会人に至る大きなコミュニティーもなければ、デレセが頼れるような情報網もない。そのため日本語の上達が遅く、日本社会にもなかなか馴染めず苦悩するなか、岡田監督は誠実さ、言葉ではなく行動でリーダーシップを示せると、異色のキャプテンを指名した。

 2人の副将もデレセをバックアップし、史上初の外国人主将が、箱根という学生スポーツのひとつのシンボルをまとめ上げる手腕を発揮する。自分の行動でチームを引っ張ろうと、課したモットーは「目配り、気配り、心配り」である。

 例えば走れない選手がいれば、下がって先導役を買いサポートする目配りを欠かさない。厳しい練習を全員で乗り越えた日は、自分のこづかいで評判のプリンを何十個も買ってごほうびを振る舞う気配りを見せる。

 「日本人だからとか、留学生だからといった先入観はなく、本当に駅伝チームの一員として素晴らしい人間を主将に選んで、一丸となれたと思います。これで私も2年連続シードで安心して道を譲れます」

 監督は安堵した様子で3日に話した。2010年から拓大を指導し3月で退任。アドバイザー的な役に下がり、後進に道を譲ると決めていたのだ。そんな監督の気持ちを知り、主将はミーティングで初めて苦手な日本語で自分から切り出したという。

 「長い間お世話になってきた監督さんに、みんなで恩返しをしましょう」

 こんな浪花節的な心配りに、監督が涙しないわけがない。

 1989年、賛否両論が展開されるなか、箱根駅伝に初めて外国人留学生としてケニア人選手が出場した。

 以来、ケニアランナーたちが箱根、学生陸上を引っ張りながら迎えた平成最後の今大会、初めて外国人選手が大所帯を仕切るリーダーに任命されたのは、外国人労働者、観光客をかつてないスケールで受け入れようとする時代を映し出していたのではないか。 ・・・ログインして読む
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筆者

増島みどり

増島みどり(ますじま・みどり) スポーツライター

1961年生まれ。学習院大卒。84年、日刊スポーツ新聞に入社、アマチュアスポーツ、プロ野球・巨人、サッカーなどを担当し、97年からフリー。88年のソウルを皮切りに夏季、冬季の五輪やサッカーW杯、各競技の世界選手権を現地で取材。98年W杯フランス大会に出場した代表選手のインタビューをまとめた『6月の軌跡』(ミズノスポーツライター賞)、中田英寿のドキュメント『In his Times』、近著の『ゆだねて束ねる――ザッケローニの仕事』など著書多数。

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