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東電は08年には津波対策をとる方針を決めていた

大詰めを迎えた福島原発事故東電刑事裁判(上)

海渡雄一 東電刑事裁判支援団弁護団犯罪被害者代理人弁護士

政府の地震予測を無視してはならなかった

 裁判の第1の争点は、政府の地震調査研究推進本部(以下「推本」という)の長期評価をどう見るかということでした。福島第一原発は30メートルの高台を20メートル掘り下げた10メートル盤に原子炉建屋、タービン建屋などが建てられており、津波の高さが10メートルを超えれば致命的な事態となることは最初からわかっていました。

 推本は、兵庫県南部地震を契機に1995年7月に作られ、地震に関する多数の専門家を擁する国の地震調査の組織であり、国の防災対策の基本となる地震予測のための情報を提供する機関です。推本は2002年7月に、三陸沖から房総沖の日本海溝沿いで過去400年間に津波地震がなかった福島沖、茨城沖でもマグニチュード8クラスの津波地震(津波被害が大きいにもかかわらず、地震被害がほとんどない地震)が起きる可能性があるとの見解を公表しました(以下「推本の長期評価」という)。関連する地震・津波の専門家のコンセンサスによってこの評価が策定された経過は、気象庁から本部に出向していた前田憲二氏、推本の長期評価部会長島崎邦彦氏、長期評価部会のメンバーで歴史地震学者の都司嘉宣証人によって、余すところなく立証されました。島崎部会長の進行により、専門家による自由な討論を通じて、一つずつ事実を確認しつつ、意見を一致させていったのです。

 東日本太平洋沖地震は、想定外の地震であったといわれますが、島崎氏は「パーツごとの評価は当たっていたが、評価した通りの地震がいっぺんに起きた」ものであると分析しました。決して想定外の地震ではなかったのです。

 津波対策の第一人者であり、弁護側申請の首藤伸夫証人は、推本の長期評価については沈黙しましたが、中央防災会議が7省庁手引き(1997年)を無視し、想定すべき津波(推本の長期評価を含むと考えられる)に対応せず、既往の津波にしか対応しなかったことについて「たいへんがっかりした」と厳しく批判しました。

 「3・11」の2日前の2011年3月9日には、島崎氏らは、貞観の地震・津波(869年)の研究の進展を踏まえ、東北沿岸に襲来する津波が内陸まで達する可能性があるとする長期評価の第二版を公表する予定でした。ところが、 ・・・ログインして読む
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筆者

海渡雄一

海渡雄一(かいど・ゆういち) 東電刑事裁判支援団弁護団犯罪被害者代理人弁護士

1955年生まれ。81年弁護士登録。2010~12年日本弁護士連合会事務総長。11年から脱原発弁護団全国連絡会共同代表。著書に「原発訴訟」(2011 岩波新書)など。