「唯一の解決策」と辺野古基地建設を強行、韓国への批判を強める外相ら
2019年01月21日
「本土の人には理解できないよ!」
その鬼気迫る形相に、私はたじろいだ。
電気工事店を営むその友人とは15年来、沖縄を訪ねるたびに会う仲だ。もうすぐ60歳を迎えるが、かつては重量挙げで鳴らした選手だ。隣に座っているだけで筋肉の熱量を感じる。そのわりに穏やかで、自分の意見を口にすることは滅多にない。人の話に相槌をうちながら、いつもニコニコと聞き役だ。ましてや政治的な発言などこれまで聞いたことがない。
昨年11月下旬、彼は沖縄市の居酒屋で珍しく深酒をして饒舌になっていた。
いきなりだった。
「あの徴用工の判決、どう思う?」と尋ねられた。その1カ月ほど前に、韓国の大法院(最高裁)が元徴用工の賠償請求を認める判決を下し、日本・韓国両政府の応酬が繰り広げられていた。
私は少し戸惑って答えた。
「請求権協定もあるし、だからといって個人の補償は閉ざされていないし……」
すると急に前のめりになって、声のトーンを上げた。
「踏みにじられたほうは、過去をけっして忘れないんだよね。踏んでいるほうは気づかずに『粛々と』なんて言うけどさ」
彼の言いたいことはすぐに理解できた。
彼は戦後生まれだが、沖縄戦の話は学校でも家族からも聞いている。本土の捨て石となって戦い、12万人もの県民が命を落とした。なのに、日本の独立の時に沖縄は切り捨てられ、長く米軍統治下に置かれた。民有地が強制的に奪われて米軍の基地になっていく。1972年には本土復帰を果たしたが、基地は減らない。それどころか本土の負担の割合は7:3で固定化されてしまっているのは、彼らにとってみれば本土の差別意識の表われに見える。そのうえで辺野古に新たな米軍基地を作るという。「踏みにじられた」というのは、まさしく彼の実感に違いない。
世界一危険な基地と言われる沖縄・普天間基地の返還に日米が合意した後の99年、沖縄県知事だった稲嶺恵一氏は普天間基地の代替として辺野古基地の受け入れを決めた。政府はこれを理由に「唯一の解決策」と説明するのだが、稲嶺氏の辺野古受け入れには条件があったことは忘れられがちだ。新基地は軍民共用空港とし、米軍の使用については15年を期限とすること。政府もこれを重く見て米国と話し合うことを約束したが、なぜか小泉純一郎政権の時に、この条件が消えてしまった。
さらに言えば、稲嶺氏を継いだ仲井眞弘多知事が2013年に安倍晋三首相らと会談した際には、辺野古の埋め立てを承認するに際して普天間飛行場の「5年以内の運用停止と早期返還」を要望している。これに対して、安倍首相は「ご要望は沖縄県民全体の思いとしてしっかりと受け止め、日本政府としてできることはすべて行うというのが安倍政権の基本姿勢であります」と応じた。だが、それも15年には「政府がやり取りした言葉であって、合意されたわけではない」と国会で中谷元防衛相(当時)が答弁している。一連の経緯は、翁長雄志の著書『戦う民意』で書かれているが、仲井眞氏と首相との約束は空手形だったことになる。
住宅密集地にある普天間基地の危険性除去は緊急の課題であることは間違いない。だが、これまで沖縄に負担を強いてきた戦後の経緯や、政府と交わした約束さえ軽んじられていることに、沖縄は怒っているのだ。この辺野古問題の根底にあるのは、まさに踏まれ続けてきた沖縄の尊厳だ。それを一顧だにせず「唯一の解決策」「粛々」と神経を逆なでしてきたのが安倍政権だった。
過去の歴史や議論の積み重ねを無視して、都合の良いフレーズを切り取ってアピールするのは安倍政権の真骨頂だ。一部でも事実だから文句も言えないが、その事実の背景にあるもう一つの側面には思いを馳せないから、言われたほうの尊厳が侵される。今回、韓国大法院が徴用工への慰謝料を認めた判決への対応も、沖縄・辺野古のそれと似ている。
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