辰濃哲郎(たつの・てつろう) ノンフィクション作家
ノンフィクション作家。1957年生まれ。慶応大卒業後、朝日新聞社会部記者として事件や医療問題を手掛けた。2004年に退社。日本医師会の内幕を描いた『歪んだ権威』や、東日本大震災の被災地で計2か月取材した『「脇役」たちがつないだ震災医療』を出版。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「唯一の解決策」と辺野古基地建設を強行、韓国への批判を強める外相ら
「本土の人には理解できないよ!」
その鬼気迫る形相に、私はたじろいだ。
電気工事店を営むその友人とは15年来、沖縄を訪ねるたびに会う仲だ。もうすぐ60歳を迎えるが、かつては重量挙げで鳴らした選手だ。隣に座っているだけで筋肉の熱量を感じる。そのわりに穏やかで、自分の意見を口にすることは滅多にない。人の話に相槌をうちながら、いつもニコニコと聞き役だ。ましてや政治的な発言などこれまで聞いたことがない。
昨年11月下旬、彼は沖縄市の居酒屋で珍しく深酒をして饒舌になっていた。
いきなりだった。
「あの徴用工の判決、どう思う?」と尋ねられた。その1カ月ほど前に、韓国の大法院(最高裁)が元徴用工の賠償請求を認める判決を下し、日本・韓国両政府の応酬が繰り広げられていた。
私は少し戸惑って答えた。
「請求権協定もあるし、だからといって個人の補償は閉ざされていないし……」
すると急に前のめりになって、声のトーンを上げた。
「踏みにじられたほうは、過去をけっして忘れないんだよね。踏んでいるほうは気づかずに『粛々と』なんて言うけどさ」
彼の言いたいことはすぐに理解できた。
彼は戦後生まれだが、沖縄戦の話は学校でも家族からも聞いている。本土の捨て石となって戦い、12万人もの県民が命を落とした。なのに、日本の独立の時に沖縄は切り捨てられ、長く米軍統治下に置かれた。民有地が強制的に奪われて米軍の基地になっていく。1972年には本土復帰を果たしたが、基地は減らない。それどころか本土の負担の割合は7:3で固定化されてしまっているのは、彼らにとってみれば本土の差別意識の表われに見える。そのうえで辺野古に新たな米軍基地を作るという。「踏みにじられた」というのは、まさしく彼の実感に違いない。
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