中江裕司監督のドキュメンタリー、ハワイと富山とのつながりから描く望郷
2019年02月15日
2011年12月。福島県の南相馬市を訪れた。当時富山県南砺市が行っていた取り組みに加わるような形で、彼の地での餅つきイベント参加が目的だった。江戸時代、当時加賀藩だった南砺から、飢饉で藩の存続が危ぶまれた現在の南相馬である相馬中村藩に、多くの移民がやってきたことで労働力が確保され年貢が納められ、危機を救ったという過去がある。震災のあと、今再びその関係を結ぼうと交流が生まれていたのである。
前日の夜には両市民の懇親会があった。そこでは「私の先祖は富山からの移民なんですよ」という人が少なからずいて、いちばん大切な仏壇を先祖がいかに苦心して運んできたかという話や、「家の前に柿の木が植えられているところは、加賀藩がルーツ」であるということなどを聞いたことがとても印象に残っている。
そんな中、ハワイには100年以上日系人の間で継がれ続けてきた「フクシマオンド」という存在を知り、双葉の盆唄仲間たちとハワイ・マウイ島へと向かう。「もしかしたらハワイの人たちに双葉の盆唄を伝えれば、自分は無理でもいつか子孫が故郷に戻れたとき、盆唄もハワイを経由して帰還することができるかもしれない」という希望を持つ。
ここでの盆唄は、もちろんただの唄ではなく故郷や望郷の象徴である。唄は自分たちの故郷をそしてルーツを伝え、横山さんたちにとっては心の拠り所であり、移民3世や4世にとっては先祖の想いと対話する手がかりになっている。そして映画にはもうひとつ、唄を中心に据えた望郷の物語がある。それが江戸時代、加賀藩から相馬中村藩へと渡り危機を救った移民たちのストーリーである。
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