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[20]東日本大震災から8年、対策は進んだのか

福和伸夫 名古屋大学減災連携研究センター教授

mTaira/shutterstock.com
 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)から8年が経つ。避難区域はいまだ解消されず、5万人を超える人が避難している(復興庁調べ、2019年1月29日)。内訳は応急仮設住宅などに避難している人が3万人強、親族・知人宅に避難している人が2万人弱である。2020年度末を目途とした復興事業も完了が難しいようで、20年度末の廃止が決まっている復興庁は、別の形での存続が予想される。福島原発も除染は進むものの、根本的な解決の道筋は明確になっていない。本稿では、震災以降の8年間に行われた、地震対策、津波対策、長周期地震動対策、液状化対策、天井落下対策、土砂災害対策について、その歩みをまとめてみる。

想定外と言わない

 日本では起きないと思われていたマグニチュード9クラスの超巨大地震や大津波、福島原発事故などを見て、多くの人が「想定外」との言葉を発した。震災後、中央防災会議に設置された「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」において、あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を検討することの必要性が指摘され、ハード対策に加え、ソフトの力を総動員して災害を極力減らす「減災」の大切さが共有された。

 東北地方太平洋沖地震と同様の超巨大地震の発生が危ぶまれる南海トラフ地震に対しても、中央防災会議に設置された「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」で最大クラスの地震を想定した被害予測が行われ、2013年3月に予測結果が公表された。その被害は、最悪32万3千人の死者、220兆円の経済被害に及び、国難とも言える事態になることが分かった。その後、2014年6月に国土強靭化基本計画が策定され、防災施策が推進されることになった。

津波防災対策の進展

 東日本大震災では、たくさんの人が津波によって犠牲になった。しかし、多くの子供たちは速やかに避難し、津波防災教育の大切さが認識された。幾度も津波被害を受けてきた三陸海岸のまちでは、高台移転などで難を逃れた地域も多く、過去の津波教訓が生きた。

 震災後、津波に強い街づくりを進めるために、「津波防災地域づくりに関する法律」が制定され、2011年12月に施行された。都道府県知事が予想される最大津波高などに基づいて津波浸水想定(津波があった場合に想定される浸水の区域及び水深)を公表し、市町村は津波に強い地域づくりの推進計画を策定する。都道府県知事は津波被害の想定される危険地域を「津波災害警戒区域」(イエローゾーン)に指定したり、さらに住民の生命・身体の危険がある地域を都道府県知事が「津波災害特別警戒区域」(オレンジゾーン、レッドゾーン)に指定したりして住民に移転勧告ができるようになった。

 推進計画の策定によって、津波防護施設の整備や集団移転促進など、様々な施策の推進が可能になる。また、「津波災害警戒区域」に指定されると、病院をはじめ、要援護者が集まる施設は避難計画の策定や避難訓練の実施が求められ、「特別警戒区域」になると、要援護者が集まる施設を建てる際に津波に水没しない高さにすることなどが求められる。

 現状、多くの都道府県で津波浸水想定が行われているものの、2018年12月時点で推進計画が策定されたのは10市のみ、災害警戒区域の指定は10県の市町村、津波災害特別警戒区域の指定は静岡県伊豆市の1市のみとなっている。制度は作られたものの、まだ十分な活用は行われていないのが現状である。

 また、津波に対する建築構造物の安全性の検証法として、2011年12月に国土交通省告示「津波浸水想定を設定する際に想定した津波に対して安全な構造方法等を定める件」が定められた。さらに、官庁建物の津波被害が大きかったため、2013年3月に「官庁施設の総合耐震・対津波計画基準」と「官庁施設の津波防災診断指針」が制定され、2017年3月には国土技術政策総合研究所から「災害拠点建築物の設計ガイドライン(案)」が公表された。このように建築物も対津波設計が行われるようになった。

 新たなハード整備の試みもある。浜松市では民間企業の寄付などにより防潮堤が建設されつつある。2014年に本格着工し、すでに6割に当たる10km強が建設された。これに触発されてか、隣接する磐田市や袋井市でも磐田市津波対策寄付金や袋井市ふるさと防災寄付金の制度が始まった。公のみに依存せず、地元の民の力を合わせて防災対策を行う好事例である。

長周期地震動対策の進展

 地震の規模が大きくなると、周期の長い地震波が長時間放出される。長周期の波は遠くまで伝わりやすく、大都市が立地する大規模平野ではその揺れが増幅・伸長する。一方、大都市には、長周期で揺れやすい高層ビルが林立している。このため、震源から遠く離れた東京や大阪で、高層ビルが大きく揺れた。中でも震源から700㎞も離れた大阪湾岸に建つ高さ256mの超高層ビルでは3m弱の揺れを観測した。

 震災後、内閣府の「南海トラフでの巨大地震モデル検討会」で、南海トラフ地震に対する長周期地震動が検討され、2015年12月に「南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動に関する報告」がまとめられた。さらに、国土交通省は、2016年6月に「超高層建築物等における南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動への対策について」を通知し、関東地域、静岡地域、中京地域及び大阪地域の対象地域内において、新築する超高層建築物等の大臣認定の運用を強化し、超高層建物の耐震安全性を向上させることにした。

 一方、2016年に発生した熊本地震では、震源近傍で数mもの変位が生じた長周期パルスが観測され、長周期長時間地震動に加え、長周期パルスに対する対策の必要性が明らかとなった。こういった中、東洋ゴムの免震ゴムや、KYBのオイルダンパーのデータ不正の問題が露呈するなど、残念な事態が発生し、長周期地震動対策が遅滞することが懸念される。

進まない液状化対策

 東北地方太平洋沖地震では、震源に近い場所に加え、茨城県の利根川下流域や、千葉県の東京湾岸地域で広域に液状化した。震源に近い沿岸部では、液状化によって杭の引き抜き抵抗力を喪失し、津波で転倒した杭基礎の鉄筋コンクリート建物もあった。旧河道や埋立地での液状化は甚大かつ広域であり、とくに千葉県浦安市では

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