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福島の汚染土「再利用」を押しつける政府の狡猾

二本松市・南相馬市の道路整備計画に反対する住民の思いとは

青木美希 朝日新聞社会部記者

 国民が知らない間に大変な事態が進行している。福島から取り除いた汚染土は国が処理するとしていたが、処理しきれない量であるとして、全国の道路や農地造成などに汚染土を使えるようにする、というのだ。

 福島第一原発事故は広範囲に大地を放射性物質で汚染した。除染作業で取り除いた汚染土は、福島県内だけで1400万㎥を超えると政府は試算している。

 政府は、この土を福島第一原発周辺の中間貯蔵施設と名付けた場所に運び入れた後に県外に処分する、としている。だが、全量を県外に処分するのは「実現可能性に乏しい」として、1kgあたり8000Bq(ベクレル)以下の汚染土を全国の道路や農地造成などの公共事業に再利用する計画を進めている。

汚染土の埋め立て処分の実証事業=2018年10月25日、栃木県那須町
 汚染土を通常の土やアスファルトで覆えば、作業員や周辺住民の追加被曝は年1mSv(シーベルト)以下におさまるという説明だ。再利用の対象が全国であるうえに、環境省は岩手、宮城、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉の7県に計約33万㎥ある汚染土も再利用の対象になりえるとみている。

 原発事故から間もなく8年。事故のことを忘れ、復興が進んでいると思っている人たちの生活にもかかわる問題になりかねない。

汚染土を使った市道の整備計画

 すでに福島県内では計画が進められており、飯舘村では汚染土で農地造成を行う土地の測量、設計が行われている。南相馬市では高速道路に汚染土を使う計画について、地元住民が反対運動を始めた。「反対の声を上げないと次々進められる」と、昨年12月には都内でも集会が行われ、各地でも声が上がりつつある。

汚染土を使った整備が予定された二本松市の道路(撮影:幸田大地/Yahoo!ニュース特集)

 福島県の山間にある二本松市では昨年、汚染土を使って山間部の未舗装の市道を整え、舗装を行う計画が昨年実行されようとしていた。昨秋から道路工事を施工する予定だった。予定地の延長約200mの道路は行き止まりで、そばには民家がある。周囲にはキュウリ畑や田んぼが広がり、水も流れている。夏にはホタルも飛ぶ。典型的な日本の農村地帯だ。小学校も近くにある。

 住民たちは突然事態を知った。そばに住む牧師の金基順さん(52)は昨春、犬の散歩をしていた農家の高齢女性に「この辺に道路つくるらしいよ。汚染土を使って」と言われ、初めて知った。自宅から300〜400mほどの地点だ。びっくりした。

 4月中旬の住民説明会に顔を出すと、地域の21世帯すべてから参加者が来ているのが見えた。環境省や市の職員らも参加し、会場はいっぱい。担当者はそこで、「近くの仮置き場内に置かれた大型土嚢(どのう)約500袋を破って、異物を除去し、路床に使います。そのうえで舗装道路にする実験です」と説明した。土嚢には汚染土が入っている。

 「土砂崩れがあれば小学校近くまで流れていくかもしれない。せっかく除染で取り除いた土をどうして再び袋から出して使うのか。あり得ない。福島の農産物にまた影響が出て、福島から離れる人が増えてしまうかもしれません。各地で使われだしたら、海外でも『日本全国が汚染されている』と思われかねないのではないでしょうか。ここで止めなければ」

福島県二本松市の金基順さん。手前は筆者(撮影:幸田大地/Yahoo!ニュース特集)

 この説明会からおよそ10日後、次の説明会があった。「農産物が売れなくなっても補償してくれるんだったらやってもいいよ」という声もあったし、反対意見に「そうよ、そうよ」と同調する声も上がったという。

 金さんは、「みんなでつくる二本松・市政の会」と「救援復興二本松市民共同センター」が進める署名活動に参加。SNSなどで反対の声は全国に広がり、約5000筆の署名が環境省に提出された。すると、同省は6月下旬、二本松市長に対し「複数回の説明会において、風評被害への懸念など多数のご意見をいただいた」として実験の再検討を伝達し、この件はひとまず中断した。

 しかし、ここで止められた、という金さんの思いは、打ち砕かれた。環境省は、別の計画を進めていたのだ。

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