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沖縄県民投票への閉塞感を破った一本の電話(下)

5市の不参加問題を動かした元山氏のハンスト

辰濃哲郎 ノンフィクション作家

 沖縄県の辺野古新基地建設の是非を問う県民投票に、5市が不参加を表明したのは年末から年始にかけてだ。「辺野古」県民投票の会は、5つの自治体の市長や市議会議員に面会して参加を求めるなど奔走したが、事態は動かない。窮地に陥っていた県民投票の会の元山仁士郎代表(27)が、若い世代の仲間にハンストを決行することを打ち明けたのは、このころだ。副代表の安里長従(あさと・ながつぐ)氏(47)が、元山氏からハンストをしたいと電話をもらったのは、決行2日前の1月13日だったと記憶している。

 安里氏は反対した。ハンストは自分に対する暴力だ。それを相手に示して訴えるのは、暴力を手段とした抵抗運動だと考えたからだ。

 だが、電話の向こうで、いつも沈着冷静な元山氏が珍しく気色ばんだ。

 「じゃあ、何ができるって言うんですか!」

 元山氏は、よほど切羽詰まっているのだろう。意思は固かった。

 「そこまで言うなら、わかった」

ハンストを始めた元山氏

沖縄県宜野湾市役所前でハンガーストライキを続ける元山仁士郎さん=2019年1月17日
 ハンストが始まったのは15日だ。安里氏は元山氏にアドバイスをした。5市に要求するのはあくまで2択での県民投票への参加だ。記者に問われても選択肢の妥協は口にしないように。身内からの反発を避けるためでもあった。

 そして、ハンスト3日目の朝を迎えた。安里氏に、公明党県本部の金城勉代表から連絡が入った。

 「今朝の新聞に載っていることは、本当か」

 その日の琉球新報の朝刊に、安里氏が条例採決前に「賛成」「反対」の2つの選択肢を「容認」「反対」に代えてもよいと県政与党に提示していたこと。そして年が明けて沖縄市の桑江市長に面会した際にも、この2択を提示して前向きな回答を引き出したことを伝える記事が掲載されている。

 「すぐに会いたい」という求めに応じて、県議会棟の公明党控室に向かった。その前に、安里氏は県の謝花喜一郎副知事に電話を入れている。彼が全県での県民投票実施を模索してくれていることを知っていたからだ。

 「これから金城県議に会うことになりました」

 謝花氏は、玉城デニー知事と連絡を取るから少し待ってくれと、いったん電話を切った。折り返しかかってきた電話で、知事が提示した3つの条件を告げられた。

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