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模索続く南海トラフ「前兆」への対応

地震が一度で終わらない可能性 空振り覚悟で「次」の避難を促せるか

前田史郎 朝日新聞論説委員

 地震の発生を予知することは今の知識ではできない。東海地震について国がそう認め、予知を前提としない防災へと方向転換したのは一昨年のことだ。以来、なにか兆候があれば気象庁が「臨時情報」と称する情報を出し、住民に警戒を呼びかけることになった。だが、発生するかどうか、出す側も定かに言えないようなあいまいなもので人の生活をどこまで制限できるものなのか。地震大国が直面する新たな課題である。

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 昨年末、政府の中央防災会議の作業部会が東海地震を含む南海トラフ沿いで想定されている大規模地震に関する報告書をまとめた。東海沖から九州沖に延びる南海トラフでマグニチュード(M)8~9級の地震が起きれば、大津波が発生し、死者は最大30万人超になると想定されている。

 報告書は、南海トラフが実際に動きそうな異常を示した時に、住民や企業の対応状況をまとめたものだ。

 1年近く続いた議論で焦点となったのは、南海トラフがいっきに動き、地震が一度で終わるとは限らないことだ。現に1854年には安政東海地震の約30時間後に安政南海地震が起き、1944年の昭和東南海地震では2年後に昭和南海地震が起きた。

 報告書はこの点を重視し、震源域の半分でM8級の巨大地震が起きる「半割れ」、規模が一回り小さい「一部割れ」、揺れを感じない程度の地殻変動が起きる「ゆっくりすべり」の3ケースで、とるべき対応策を示した。

 このうち特に重要なのが、地震が連動して起きる可能性が高い「半割れ」である。

 たとえば名古屋など中部地方で大地震が発生したが、四国や近畿は揺れなかったとする。その場合、四国や近畿に臨時情報が発令され、1週間程度の一斉避難を促すーーというのである。

 だが、「次の地震」がいつくるかはわからない。「空振り」覚悟の避難をこれほどの広範囲で実施するのは、容易ではない。
たしかに地震発生直後ほど次の地震がおこる確率が高い。半割れ後、反対側で1週間以内にM8級の地震が起きた世界の例は、103件のうち7件ある。地震学上、この確率はとても高いということはできても、裏返せば9割以上、何も起こらないという数字でもある。

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 困っているのは被災が想定される自治体だ。

 最大34メートルの津波が押し寄せ、2000人以上が死亡するとされる高知県黒潮町では、昨春から、臨時情報が出された場合の対応を検討してきた。

 平野部のほとんどが30分以内に津波に襲われ、山間部は土砂災害の危険もある。仮に「半割れ」か「一部割れ」の臨時情報が出されたら、町民の大半が避難対象にふくまれる。

南海トラフ地震で全国最悪の高さ34メートルの津波に襲われるとされる高知県黒潮町。廃校となった小学校の体育館を「備蓄倉庫」として活用している=2013年5月
 人口約11000人で、65歳以上が4割を超す。町情報防災課は「まず要支援者の人を最優先に避難を呼びかけるが、強制はできない。自分の判断で自宅に残る人も相当いるだろう」と話す。
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