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大石芳野が撮る、声なき人々の終わりなき戦争・上

メコンの嘆き/大石芳野写真展「戦禍の記憶」が開幕

徳山喜雄 ジャーナリスト、立正大学教授(ジャーナリズム論、写真論)

ラオスで地雷化する地中の魔物、不発弾

 2000年代半ばからは取材の幅をラオスにも広げた。

 ベトナム戦争中、米軍は北ベトナム軍への補給路を断つため、約200万トンものクラスター爆弾をはじめとする多くの爆弾をラオスに投下したとされる。クラスター爆弾は大型の弾体のなかに複数の子弾を搭載した爆弾で、空中で子爆弾が飛び散り、広範囲に被害を与える残虐な兵器だ。不発弾となった約8000万個の子爆弾が地雷化し、ラオスの農地や森林に残る。この地中の魔物をすべて除去するには200年以上かかるともいわれている。

「農民が畑に鍬を入れたり、鎌で草を刈ったりすると、不発弾が爆発、多くの犠牲者がでています」。戦争が終わって30年という歳月がたっても、ラオスの人びとの苦しみは終わらない。戦禍が果てしなくつづくことを、ここでも実感した。

集落前の田畑で不発弾処理。UXO Lao(ラオス不発物処理機関)が全土で作業を開始した1994年以降の死傷者は減少している(ラオス・シェンクワン県、2005年)©Yoshino Oishi
拡大集落前の田畑で不発弾処理。UXO Lao(ラオス不発物処理機関)が全土で作業を開始した1994年以降の死傷者は減少している(ラオス・シェンクワン県、2005年)©Yoshino Oishi

ウータイ族の集落で1年前にMk82型爆弾が見つかったが、爆発装置の安全弁が外せず放置されたまま(ラオス・サワンナケート県、2005年)©Yoshino Oishi
拡大ウータイ族の集落で1年前にMk82型爆弾が見つかったが、爆発装置の安全弁が外せず放置されたまま(ラオス・サワンナケート県、2005年)©Yoshino Oishi

つま先の2センチ先にクラスター爆弾が

 ラオスで不発弾処理の様子を歩きながら取材していたときのことだ。大石は何の理由もなく、ふと立ち止まった。目を足元に落とすと、つま先のわずか2センチ先にクラスター爆弾の子爆弾が埋まっていた。爆弾を覆うように枯れ葉が積もっていたので、注意深く見なければそれとは分からない。あのときはさすがに、「神がわたしの足を止めてくれた」と感謝した。

ヌット(15)は通学途中に焚き火で温まっていた時、不発弾が爆発した。「気がついたら倒れて、体中が痛く、左手と左膝に後遺症が残る。字を書くのが不自由だが、将来は看護婦になりたい」(ラオス・ホアパン県、2008年)©Yoshino Oishi
拡大ヌット(15)は通学途中に焚き火で温まっていた時、不発弾が爆発した。「気がついたら倒れて、体中が痛く、左手と左膝に後遺症が残る。字を書くのが不自由だが、将来は看護婦になりたい」(ラオス・ホアパン県、2008年)©Yoshino Oishi

 1981年に戦禍をテーマにした最初の写真集『無告の民―カンボジアの証言―』を出版し、その後インドシナ取材の20年にわたる成果を『ベトナム 凜と』に結実させた。この写真集で2001年、ドキュメンタリー作品を扱う写真家にとって最高の栄誉とされる土門拳賞を女性写真家として初めて受賞することとなった。(続く)

大石芳野(おおいし・よしの)
写真家。東京生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、戦禍や内乱など困難な状況にありながらも逞しく誇りをもって生きる人びとをカメラとペンで追いつづける。
大石芳野 ラオスとタイの国境で拡大大石芳野 ラオスとタイの国境で
◆関連イベント
大石芳野講演会(聞き手・徳山喜雄) 3月23日(土)14時~15時30分(開場13時30分)
対談・大石芳野×池内了(天文学者) 4月20日(土)14時~15時30分(開場13時30分)
いずれも東京都写真美術館1階ホールで。参加無料(ただし、大石写真展の観覧券が必要です)、定員190人

次回「大石芳野が撮る、声なき人々の終わりなき戦争・中」は27日に「公開」予定です。

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筆者

徳山喜雄

徳山喜雄(とくやま・よしお) ジャーナリスト、立正大学教授(ジャーナリズム論、写真論)

1958年大阪生まれ、関西大学法学部卒業。84年朝日新聞入社。写真部次長、アエラ・フォト・ディレクター、ジャーナリスト学校主任研究員などを経て、2016年に退社。新聞社時代は、ベルリンの壁崩壊など一連の東欧革命やソ連邦解体、中国、北朝鮮など共産圏の取材が多かった。著書に『新聞の嘘を見抜く』(平凡社)、『「朝日新聞」問題』『安倍官邸と新聞』(いずれも集英社)、『原爆と写真』(御茶の水書房)、共著に『新聞と戦争』(朝日新聞出版)など。

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