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国家がグローバル企業のために刑事司法を使う時代

五十嵐二葉 弁護士

2 国際的批判と検察の間で揺れ動く日本の裁判所

 ゴーン氏を3回目の保釈請求で保釈した東京地裁だが「住居に監視カメラを設置する」等々のこれまで例のない多種多数の条件を付けた。

 他の国の保釈に似た機能を持つフランスの司法統制(仏刑訴法137~142条)では「決められた区域から出ない」など法定の17の制約項目の中から、予審(又は自由と拘禁)裁判官が個人ごとに何項目かを選ぶのだが、日本ではそうした規定がなく、裁判官(第一回公判までは勾留裁判官)が「指定条件」として自由に決める。ゴーン事件で付された、これまで見られなかった多種多数の指定条件が、「慣例化」することを危惧する意見(読売新聞3月7日付)もある。

 しかし筆者がさらに問題に思うのは、日産取締役会に出席するには裁判所の許可を要するという条件に関して、現在取締役の身分のままのゴーン氏が招集を受けた3月12日の日産取締役会に弁護士同席で出席することを、11日に地裁が不許可決定したのだが、その決定にあたって検察官に意見を求め、検察意見書に日産の「①前会長はもはや経営に必要ない②事件関係者が影響を受けて証拠隠滅につながる恐れがある③前会長がいると圧迫されて議論しにくい」との意見書が添付されていた(朝日新聞3月12日付)ことだ。

 一方、同じ三社連合のうち「三菱自動車の首脳は12日夜、同社の取締役会への出席を拒否しない意向を示した」(朝日デジタル3月13日)中での、日産側の意見に沿う地裁の決定だ。

 裁判所が決めた指定条件内の判断に検察官の意見を聞くべきなのかがまず問題だし、そこに日産の意見書を付けるとは、どういう法的根拠なのか。

 会社としての日産は、この事件のうち「有価証券報告書の虚偽記載」では、ゴーン、ケリー両氏の取締役としての起訴に伴う「両罰規定」で起訴されている「相被告」だ。相被告の意見を裁判所がする保釈条件内の手続き判断について証拠にするという規定はないし、証拠でないなら、手続き外の情報によって裁判所が決定をすることは違法というほかない。これまでの実例も、筆者は寡聞にして知らない。

 ゴーン氏へのもう一つの訴因「特別背任」では日産は「被害者」なのだが、通常付けられる「被害者と接触しない」という条件とは別に裁判所の許可があれば「①経営に必要ない③前会長がいると圧迫されて議論しにくい」などの日産の意見は、勾留・保釈の法制度と関係ない。

 唯一裁判所が法的関係を考えたかもしれないのが「②事件関係者が影響を受けて証拠隠滅につながる恐れがある」だ。「証拠隠滅の恐れ」を勾留・保釈の要件としている日本の制度は、国際的には少数派だ。「証拠隠滅の恐れ」を広く解釈すれば、保釈はすべて認められない。最高裁は、3月13日、精神科医との間で接見禁止の解除の請求を却下した和歌山地裁の決定を「接見による証拠隠滅の現実的な恐れがあるとは言えない」ので違法と判断した。この判決を報じた読売新聞は「裁判所は近年、被告の勾留のあり方を厳格にチェックする傾向を強めており、最高裁決定は、今後の接見禁止の判断に影響を与える可能性がある」と書いている(3月16日付夕刊)。

 多数の参加する取締役会という会議の場で、出席する取締役の一人の発言に、他の取締役「が影響を受けて証拠隠滅につながる恐れ」が「証拠隠滅の現実的な恐れ」とは到底言えないだろう。

 保釈まで108日の拘束は、国際的には許されない長さとして批判され続けたが、日本では長い方ではない。

 「特に特捜部の事件では、保釈に反対する検察側の主張を裁判所が追認する形が長く続いてきた」(読売新聞3月8日付社説「弁護側の戦略が功を奏した」)。検察の準抗告を退けての「異例の『早期保釈』」(読売新聞3月7日付)で「特捜部との二人三脚からも決別した」(朝日新聞3月6日付)と書かれ、裁判所としては検察に負い目を背負ったと感じていた振り子を取締役会出席不許可で、戻したのかもしれない。

 国際的批判と、検察に追認する伝統の間で揺れ動く日本の裁判所が、国際的には異常な「人質司法」の抜本的修正に動くことは望むべくもないということか。

 しかし「人質司法」は国際語になった状態だ。Hostage justiceという英語は誰がした「直訳」なのか。日本の弁護士の間では「人質司法にjustice正義などない」と批判もあるが、瞬く間に世界的になり、ネットで引くと何十件もヒットする。

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筆者

五十嵐二葉

五十嵐二葉(いがらし・ふたば) 弁護士

1932年生まれ。68年弁護士登録。山梨学院大学大学院法務研究科専任教授などを歴任。著書に「刑事訴訟法を実践する」など。

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