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国内初の小学校が誕生し150年になる京都の教育

図画に力を入れた伝統、市バスの車内アートを手掛けたのは銅駝美術工芸高校

薄雲鈴代 ライター

 桜の便りを待たずとも、京都は相変わらず国内外からの観光客でにぎわっている。他府県に比べて、タクシーが拾いやすく事欠かない京都であるが、賢く観光するには、市バスを上手く活用するのが一番である。

 狭い京都の町に名刹が居並んでいるので、市バスの一日乗車券(600円)を持っていれば、あらゆる観光名所をめぐることができる。さらにこの乗車券で割引の利く施設が多くあるので一挙両得。さらに山科や醍醐など、市バスルートの及ばない地域は、地下鉄との併用(地下鉄・市バス一日乗車券900円)で、かなり網羅される。

 京都の暮らしに欠かせない市バス交通網であるが、なかでも人気観光地を最短でめぐる観光系統バスがある。京都駅を起点に、五条坂から祇園、岡崎公園美術館・平安神宮、銀閣寺前と、東をめぐる100号系統。逆に、二条城、北野天満宮前、金閣寺道を経て北大路バスターミナルと西をめぐる101号系統。さらに、錦林車庫前から北野天満宮、金閣寺へと、東西をつなぐ102号系統など、途中のバス停をすっ飛ばして、主要な観光地を巡回するバスである。

拡大バスの中に展示された自分たちの作品を見る銅駝美術工芸高校の卒業生たち=2019年3月17日、京都市下京区東塩小路町
 この観光系統バスに乗りながらアートが楽しめる試みが、3月18日から行われている。車内アートを手掛けたのは、京都市立銅駝美術工芸高等学校の3年生(アートフロンティアコース)37名である。

日本で最初の画学校は京都から始まった

 京都市立銅駝美術工芸高等学校は、美術工芸専門の高校である。現在、普通科とともに美術・芸術コースを併設する公立高校は他府県にも見られるが、美術工芸8専攻(日本画・洋画・彫刻・漆芸・陶芸・染織・デザイン・ファッションアート)に特化した公立高校は、銅駝美術工芸高校が唯一無二である。

 その最初は明治13年(1880)、京都御苑内に創立された京都府画学校で、日本画からスタートし、上村松園や堂本印象を輩出した。その後、大正時代のおわりには東山七条に移転し絵画、図案、彫刻、漆工、建築が学べる学校となる。昭和20年の終戦前に、日本でいち早く男女共学化がなされ、その後、西洋画科、陶芸科、服飾科が加わり、創立100周年の時に、現在の二条大橋を上がった鴨川沿いに開校された。今年で139年の歴史を刻む学校である。

 京都の教育が、美術工芸に熟慮断行し、名だたる作家を育てた。先の上村松園をはじめ、松篁、村上華岳、福田平八郎といった美術館で目にする画家ばかりでなく、現代では『宇宙兄弟』の漫画家・小山宙哉さんや、ミュージシャンのつじあやのさんも銅駝美工の卒業生だ。

 校長である吉田功先生は「なにも高校から専門分野に特化しなくてもいいのではないか、という意見もあるでしょうが、多感な若い時分に夢中になって情熱を傾けられるものがあるのは素晴らしい。たとえそれが将来の進路に直結しなくても、高校でがむしゃらになって経験したことは、必ずや生きる力になります」と語る。

 実際、漫画家の小山宙哉さんは高校では陶芸科で学んでいた。将来、漫画家になるなど努々(ゆめゆめ)思いもしなかったようであるが、授業中に落書きしていた先生の似顔絵が好評で、先生を題材に4コマ漫画を描いたりしていたという。高校で制作していた作品や発想も、後々の語り草になるほど独創的だったときく。銅駝美工で学んだその先に、『宇宙兄弟』があるのも頷ける。小山さんをはじめ、銅駝美工の卒業生たちはアーティストとして各界で活躍している。ひとつ例を挙げるなら、チョーヤの「さらりとした梅酒」のパッケージをデザインしたのも卒業生だ。

 ひたむきに制作に励む生徒の姿を、吉田先生は尊敬のまなざしでもって楽しそうに語る。生徒たちのそのたゆまぬ努力に感動しているのが話を伺っていてわかる。

 専門性の高い高校ゆえに、教職員の構成にしても、美術の専門教員と、普通教科の教員とが相半ばしている。吉田先生も本来は社会科教師で、校長として赴任した時、芸術については門外漢だったという。

 「だからこそ、芸術とは何なのか、美術館に足繁くかよい、美術書を意識して読み、現場で学びました」

 生徒たちの発表の場に出かけるのはもとより、美術の教員が展覧会に出品すると聞けば必ず観に出向いた。その中で、吉田先生が着目したのは「社会における芸術の役割、アートが人に及ぼす影響力がどれほど凄いか」ということである。

 ゆえに、銅駝美工の授業は、単に個々人が制作しておわりというものでなく、常に社会との関わり、アートを社会に発信して、生徒たちはその反響をじかに肌で感じている。美術を通じた震災復興への活動「虹のアートプロジェクト」への参加や、近隣のデイケア施設や病院での美術展示や世代を超えた人々による共有参加型のアート制作など、人間が生きるにあたって、いかに‘美しきもの’が必要か、生きた授業を通して学んでいる。

 冒頭に述べた京都市バスの車内アートもその一環だ。

 100号系統の車内では、銅駝美工生オリジナルの素敵なキャラクターたちが、沿線の観光名所を紹介し、また別の車内では、仏像について詳しく説明してくれている。 ・・・ログインして読む
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筆者

薄雲鈴代

薄雲鈴代(うすぐも・すずよ) ライター

京都府生まれ。立命館大学在学中から「文珍のアクセス塾」(毎日放送)などに出演、映画雑誌「浪漫工房」のライターとして三船敏郎、勝新太郎、津川雅彦らに取材し執筆。京都在住で日本文化、京の歳時記についての記事多数。京都外国語専門学校で「京都学」を教える。著書に『歩いて検定京都学』『姫君たちの京都案内-『源氏物語』と恋の舞台』『ゆかりの地をたずねて 新撰組 旅のハンドブック』。

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