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政府の法科大学院・司法試験改革法案、何が問題か

須網隆夫 早稲田大学法科大学院教授

法科大学院の困難

 2004年に始まった法科大学院教育は順調に滑り出し、学生の充実した予習を前提とする、学生と教員間の双方向的な授業、社会の現実に根差して新たな法理論・実務を考える臨床法学教育等、多くの試みがなされ、日本の法学教育に新たな風を吹き込んだ。しかし、間もなく状況は一変する。すなわち、当初は7~8割に達すると予想された司法試験合格率が、それを大きく下回る程度に低く設定されたこと、弁護士人口の拡大による競争激化を恐れた弁護士会が、弁護士への需要がないと積極的にキャンペーンを始めたことなどを原因として、法科大学院志願者数の減少が始まる。学生のマインドが司法試験重視に転換する中で、司法試験問題の学生への漏洩などの不祥事も発生し、志願者数の減少と法科大学院の募集停止が繰り返されるという負のスパイラルに制度は陥っていく。

 そのような状況に拍車をかけたのが、2011年から実施されている司法試験予備試験である。予備試験は、法科大学院に進学する資力と時間のない者に、法曹への道を開くために残された例外的制度であり、合格すれば、法科大学院終了相当と認定され、司法試験を受験できる。しかし、制度趣旨と異なり、受験資格が制限されなかったために、実際に受験し、合格する者の大半は、現役の法学部生・法科大学院生であり、大手法律事務所に就職するエリートコースとみられている。一部の法科大学院では、相当数の学生が予備試験合格者として司法試験を受験し、合格すると法科大学院を退学していくという現象が生じている。実は、提案理由には書かれていないが、今回の法案は、この予備試験を強く意識したものである。

予備試験対応としての変更

 要するに、今回の制度変更の主眼は、名目はともかく、予備試験から法科大学院に優秀な学生を呼び戻すことにある。予備試験は、受験資格への制限がないので、大学を卒業する必要すらなく誰でも受験できるペーパー試験である。このような予備試験と法科大学院との競争条件の平準化は、原理的に不可能である。法科大学院の学費が無料になることはあり得ないし、 ・・・ログインして読む
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筆者

須網隆夫

須網隆夫(すあみ・たかお) 早稲田大学法科大学院教授

1954年東京生まれ。東京大法学部卒。コーネル大学・ルーヴァン大学LL.M.。日本とベルギーで弁護士として活動した後、横浜国立大学助教授を経て、1996年より早稲田大学教授。専門は欧州連合(EU)法。日本EU学会元理事長。臨床法学教育学会及び国際経済法学会理事長。経団連21世紀政策研究所研究主幹。著書に、『ヨーロッパ経済法』(新世社)、『グローバル社会の法律家論』(現代人文社)、近著に、『英国のEU離脱とEUの未来』(共編著、日本評論社)などがある。