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プロ転向の川内優輝、市民ランナー原点に新たな道

新看板は「百戦錬磨のプロランナー」

増島みどり スポーツライター

 まるで入社式を済ませたばかりのように、初々しさと緊張感を漂わせる32歳の新人が壇上に立った。すでに大ベテランと呼ばれるに十分なキャリアを持つランナーが唇を固く結び、「気を付け」の姿勢を崩さない様子は、それがどれほど重い決断だったかをうかがわせる。

ウェアに資金は回らず、結構ボロボロだった

 4月はスポーツ界にとっても、入社、入学、移籍など変化の多い新しい季節だ。男子マラソンの川内優輝(あいおいニッセイ同和損保保険)もそうしたスタートを「元号が変わるほどの大きな変化」と表現した。10年間磨き続けた「最強の市民ランナー」の看板を下ろし、3月31日、学習院大卒業後勤務してきた埼玉県庁を退職。新たに「百戦錬磨のプロランナー」と看板を掛け替えた4月2日、長年愛用してきたメーカー「アシックス」とのアドバイザリー契約を結び、日比谷公園内で会見が行われた。いわばプロ初仕事に臨んだ記念すべき日である。

 「今まで頭の中で描いていても(時間的な制約から)できなかったことを、これからはできると思うとワクワクしている」と、興奮気味に早口で話し、報道陣に向かって笑いながらエピソードを続ける。これまで公務員として用具は全て自費で購入してきたため、消耗の激しいマラソンシューズは交換しても、アップ用シューズやウェアには資金が回らなかったという。

 「皆さん気が付いていたかもしれませんが、ウェアなんて結構ボロボロだったんですよ。契約して頂けるのは本当に恵まれているな、と思う反面、これからはその分頑張っていかなくてはという気持ちが湧いてきますね」

 そう明かして、立ち会ったアシックス関係者や報道陣を笑わせた。

 日本の男子マラソン界をけん引する勢力はここ数年、昨年、日本記録の壁を16年ぶりに破った設楽悠太(ホンダ)ら実業団ランナー、マラソン日本記録(2時間5分50秒)を持ち海外を拠点とする大迫傑(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)、そこに割って入り存在感を築き上げた市民ランナー・川内と大きく3つあった。国際舞台で競い合う最強市民ランナー枠が空白になるのは寂しいものの、公務員として有給を取って自費で参加した市民レースでの苦労や喜びといった原点は、恐らくプロになっても何も変わらないはずだ。目前となる100回目のマラソン完走(現在92)とかけて「百戦錬磨のプロランナーと呼んでもらえるようになりたい」と、目標を宣言した。

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筆者

増島みどり

増島みどり(ますじま・みどり) スポーツライター

1961年生まれ。学習院大卒。84年、日刊スポーツ新聞に入社、アマチュアスポーツ、プロ野球・巨人、サッカーなどを担当し、97年からフリー。88年のソウルを皮切りに夏季、冬季の五輪やサッカーW杯、各競技の世界選手権を現地で取材。98年W杯フランス大会に出場した代表選手のインタビューをまとめた『6月の軌跡』(ミズノスポーツライター賞)、中田英寿のドキュメント『In his Times』、近著の『ゆだねて束ねる――ザッケローニの仕事』など著書多数。

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