丸山あかね(まるやま・あかね) ライター
1963年、東京生まれ。玉川学園女子短期大学卒業。離婚を機にフリーライターとなる。男性誌、女性誌を問わず、人物インタビュー、ルポ、映画評、書評、エッセイ、本の構成など幅広い分野で執筆している。著書に『江原啓之への質問状』(徳間書店・共著)、『耳と文章力』(講談社)など
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
人の命の儚さを知った突然の死。家中サッチーだらけなのに、おまえだけがいない
野村沙知代さんが虚血性心不全で急逝したのは2017年12月8日。享年85歳だった。
「あの日は午後1時頃に起きて、お手伝いさんが作ってくれた食事をしたあと応接室でテレビを観ていた。そこへお手伝いさんが『奥様の様子がおかしいんです』と血相を変えて飛び込んできたので慌てて食堂へ行くと、サッチーが食卓に突っ伏してた。『大丈夫か』と声をかけたら、『大丈夫よ』といつもの気丈な調子で返事が返ってきたんです。でもそれが最後の言葉だったね。
そこから息を引き取るまで5分でしたよ。救急車を呼んで病院に搬送したけど、救急隊員の人ももう息をしてないと言ってたね。死んだのかと頭ではわかっても心がついていかないというか……。人の命ってこんなに儚いものかなと絶句したまま、涙も出なかった」
こう話しながら野村克也さんがしきりに弄(いじ)っていたのは左手の薬指に光る大ぶりな指輪。両家の家紋を刻み、ダイヤモンドで彩った華やかな結婚指輪は、沙知代さんのアイデアによって作られたものだという。
「この指輪を外す気はないね。同じ敷地に息子夫婦が暮らしてるけど、どうしようもなく寂しくて。妻に先立たれた男なんて憐れなもんだ。一人じゃ何もできなくて……。私がションボリしているから慰めてやろうと思うんだろうね、また結婚したらどうかって勧めてくれる人もいるけど、誰がこんな爺さんと結婚してくれるというのか……。それにサッチーの代わりはいない。50年ものあいだ片時も離れずに過ごした人だったからね」