構内はほとんどが放射線管理対象区域、人手不足解消に新しい在留資格を利用
2019年04月30日
「貧しいから出稼ぎに来ているのに、ここで働いて持って帰る金は、その後の治療費にも満たないだろう」
あるベトナム人男性はネットに書き込んだ。東京電力が福島第一原発の廃炉作業に特定技能の外国人労働者を受け入れると決めたことに対してだ。ベトナム人らからは「使い捨てにされる」との声が上がっている。
東電の決定について、私は4月18日、朝日新聞の朝刊1面で報じた。これまでの取材で原発労働者や外国人労働者支援者、専門家がそれぞれの経験から懸念を示した。問題意識を投げかけたかった。
外国人労働者の受け入れを拡大するため、政府は技能実習生から移行できる新たな在留資格「特定技能」を4月に始めた。外国人労働者の廃炉作業は、2つの大きな問題をはらんでいる。
一つは、技能実習生が置かれている最低賃金割れや不当な残業、外出制限などの劣悪な環境が、そのまま特定技能に移行して引き継がれる恐れがあることだ。廃炉作業の現場は、ゼネコンの多重下請けによって下請け作業員が搾取される構図にある。53%の業者が労働関係法令に違反しているという調査結果が出ている。もともと日本語で声を上げづらい人たちが、さらにつらい立場におかれかねない。
もう一つは、廃炉作業の安全性だ。1日約4千人が働く現場だが、全面マスクをつけた上での高線量の現場がある。昨年9月の東電のアンケートでは1185人が「全面マスクで見にくい、聞こえにくい」と回答した。日本語が母国語の人同士ですら会話が難しいのに、言葉が不十分な外国人に的確な指示を伝えられるかどうか。4月24日には衆議院で「安全管理教育が多言語化対応できていない」と指摘された。帰国後に被曝の影響でがんを発症しても、労災申請のハードルは高い。医療が整っていない国も多い。
ベトナムの20代の男性が「建設機械・解体・土木」を学ぶために、盛岡市の建設会社に技能実習生として来たが、福島県郡山市で除染と知らずに作業につかされた。2015〜16年のことだ。その後、川俣町や飯舘村など住民が立ち入れない線量の高い現場で解体工事に従事し、危険手当1日2千円が渡されるようになったという。「自分は危険な仕事をしているんですか」と尋ねたところ、こう言われたという。「いやなら帰れ」
男性ら実習生を支援してきた労働組合書記長の佐々木史朗さんは「危険手当は6600円あったが本人には2千円しか渡らず、放射線管理手帳も渡されていなかった。実習生たちからは『残業代未払い』『長時間労働』『休憩がとれない』『暴言暴力』『労災隠し』『強制帰国の脅かしにあった』という相談ばかり。人権が守られていない」と訴える。法務省はこの業者を実習生受け入れ停止5年の処分とした。
ほかにも3社が実習生に除染作業をさせていたことが明らかになり、うち1社を受け入れ停止3年とした。鉄筋施工や型枠施工の名目で実習生を受け入れながら除染地域の表土のはぎ取りなどをさせていたという。佐々木さんは福島第一原発について、「一瞬で高線量を被曝する可能性があり、除染よりさらに過酷な現場だと思う。被曝限度は法で決められ、いつまで働けるかもわからない」と警鐘を鳴らす。
無試験で「特定技能」へ移行するのは3年の技能実習を終えた外国人だが、「日本語学習の援助はなく、『ものいわぬ労働者』としかみられていない。3年たっても具体的な指示を理解できるレベルにない人が多い」と佐々木さんは言う。
福島第一原発では18年5月、敷地内の焼却炉工事に実習生6人が従事していたと東電が明らかにした。放射線管理対象区域外だったものの、確認が不十分だったという。法務省はこのとき、第一原発内で東電が発注する事業について「全て廃炉に関するもので、一般的に海外で発生しうるものではない」とし、国際貢献を目的とする技能実習生が従事することはできないと発表した。
技能実習制度は「人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識の移転による国際協力」(技能実習法)が目的だが、特定技能は日本の労働者不足の解消が目的とされる。東電は、第一原発への受け入れは主に建設分野としている。政府は建設分野では5年間で最大4万人の受け入れを見込み、その9割が技能実習生からの移行と見込んでいる。同じ人物が技能実習から無試験で移行可能な制度なのに、ずいぶんと立場が変わる。佐々木さんは「除染も廃炉作業もできない実習生の方が、まだ守られていた」という。
ではいま、福島第一原発の現状はどうなっているのか。
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