「ピエール瀧」作品が「視聴者に悪影響」の愚
作品が持つメッセージは一様ではない。教条的で一面的な価値の押しつけをやめよう
石川智也 朝日新聞記者
江戸時代の五人組や戦時中の隣組のような連帯責任
麻薬取締法違反で逮捕、起訴されたピエール瀧をめぐっては、周知のとおり、所属事務所がすでにマネジメント契約を解除し、レコード会社ソニー・ミュージックレーベルズは電気グルーヴのCD出荷や配信を取りやめた。NHKは出演中の大河ドラマ『いだてん』の再放送で出演部分をカットし、過去の出演ドラマ『あまちゃん』『龍馬伝』など6作品のオンデマンドサービスを停止した。
この動きに、坂本龍一が即座に「音楽に罪はない」と反応。弁護士らでつくる「日本エンターテイナーライツ協会」は「過度に反応し、全てを自粛・削除する傾向が強まっている」と懸念を表明し「冷静かつ慎重な対応」を求める声明を出した。
社会学者の永田夏来らは、およそ1カ月で約6万5千人分の署名を集め、ソニー・ミュージックレーベルズに対して作品の出荷停止やデジタル配信停止の撤回を求める要望書を提出。日本ペンクラブも4月15日、「作品に罪はない。表現者たちは作品の発表の場を奪われ、表現の自由が侵されている。このような風潮を深く憂慮する」との声明を出した。
何百人ものスタッフや俳優が長期間かけて作り上げたものが、その中の一人の「不祥事」で没になり、過去の作品までもがお蔵入りする――。江戸時代の五人組や戦時中の隣組のような連帯責任の息苦しさと違和感を覚えざるを得ないし、非難をおそれての先回りの自粛は安直な判断と批判されても仕方ない。
そんななか、東映は出演映画『麻雀放浪記2020』を、いっさいの編集なく予定どおり公開した。「観るか観ないかはお客様に決めていただければいい」との決断には喝采の声の一方で、「利益至上主義」「犯罪会社」などと批判も噴出。ほんとうに「作品に罪はない」のか、賛否の議論が再燃している。
あらためて公開に反対する人たちの議論を見聞きするにつけ、「十年一日だなあ」との慨嘆を禁じ得ない。

瀧容疑者出演「麻雀放浪記2020」公開について 記者会見する白石監督と東映社長=2019年3月20日、東京・銀座の東映本社