それでも先生になりたい アルバイト教師の実態
収入は正規よりずっと低いのに、きつい仕事ばかり回ってくる。これでも同じ「先生」か
佐久間亜紀 慶應義塾大学教授

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前回記事『先生が足りない! 教育現場の悲鳴』では、公立学校の教員不足が深刻化し、アルバイト教師に頼るしかない実情を報告した。なぜそこまで教員不足が進んだのか。その理由を探る前に、今回はアルバイト教師たちの実態を伝えたい。
6年生の担任になったアヤネさん
「わたし、次の学校では、6年の担任らしいです」
こんなラインが、春、アヤネさん(仮名)から送られてきた。
「あれ、アヤネさん、教員採用試験受かったんだっけ?」
「いえ、まだ臨採です!」
私は絶句した。
アヤネさんは、おととし大学を卒業したばかり。小学校教員をめざしていたが、教員採用試験に2回連続で不合格。でも、家庭の経済的事情でお金も必要なので、アルバイトで先生の仕事をしながら、教採の合格をめざしていたはずだった。
教員経験がまだ2年しかない、しかもまだ「臨採」の先生に、一番仕事が難しくて大変な6年生の担任をさせるとは……。
返す言葉を失った。
「臨採」とは、臨時採用教員の略。学校教育の現場で広く使われている言葉だ。正式には「臨時的任用教員」と呼ばれ、非正規雇用されている教員の一種にあたる。
労働の非正規化が社会のあちこちで拡大しているが、その波は教育界にも押し寄せている。2001年以降は、学校現場でも先生の「非正規化」が進んだ。いってみれば、アルバイトのような枠で採用される先生が、急激に増えたのだ。
2001年まで、教職のほとんどは正規雇用枠で、身分が不安定な非正規雇用は、例外的な2つの場合に限られていた。
一つは、非常勤講師という雇用形態で、主に中学校や高校で、英語科とか国語科とか、特定の学年の特定の授業だけを受け持つ。職位は一番下の講師の扱いで、しかも非常勤なので、「1コマいくら」の時間給で契約して、職務は授業だけに限定されている。自分の病気で休んだり、長期休暇で授業がなかったりするときは、収入がない。
もう一つは、産休・育休代替と呼ばれる雇用形態だ。正規雇用されている先生が、妊娠出産休暇を取得したり、育児休業を取得したりして正規枠に欠員が生じたときに、その期間だけの任期付きで、いわば「代打」として教壇にたつ。
休暇をとる先生が担っていた職務のほとんどを引き継ぐので、学級担任や部活顧問なども任され、フルタイムの常勤扱いになる。