75項目のアンケートを実施中、シンポをうけ秋には「次世代へのメッセージ」を出版へ
2019年05月09日
今から半世紀前、街頭ではベトナム反戦闘争、キャンパスでは日大・東大闘争が勃発、それが全国の大学・高校へ飛び火、「全共闘運動」が燎原の炎のごとく燃え広がった。そんな節目の年をむかえて、かつての全共闘経験者のあいだで、「あの時」と「あれから」を問い直し、「次世代へのメッセージ」を残そうという興味深い動きがはじまった。
今から半世紀前、日大・東大を皮切りに全国100を超える大学、さらには高校、そして中学にまでバリケードが築かれ、「若者たちの反乱」が数年にも及んだ。
いわゆる「全共闘運動」である。
それに先立って、参加者たちには、「あれから50年、私たちには伝え遺したいことがある。『続全共闘白書』へのご協力のお願い」と大書されたアンケート用紙が配布された。
それは、いまや大半がリタイアし後期高齢者を目前に控えた「元全共闘」に対して、「あの時」と「あれから」を問い直し、「次世代へのメッセージ」を残そうという呼びかけであった。
26年前、往時東大安田講堂行動隊長で後に民主党の参議院議員となる故今井澄氏をはじめ、早大、明大、中大、お茶大全共闘の中心メンバーを呼び掛け人として、全共闘運動体験者にむけて、「今こそ語りはじめよう全共闘世代」と銘打ってメッセージが発せられた。
社会の中核を担う世代となった「元全共闘」に、アンケートを通じて「来し方行く末」を問い直そうという呼びかけで、そこにはこう記されてあった。
「私たちの『明日』は決して明るくはありません。だからといって私たちの『明日』を誰かにゆだねるのは、かつて私たちがもっとも嫌った道でした。それは今も私たちがもっとも嫌う道です。私たち自身が私たちの未来の当事者でなければなりません。(中略)
もちろんこの二十数年で私たちはそれぞれ大きく変わったことを認めなければなりません。その違いと変化を認めあう中から、新しいネットワークのありようを展望していきたいと考えます。
その第一歩としてアンケートを行って、現在の私たちの肖像を『白書』として広く社会に発信することで、私たちの次なる方向を定めるスプリングボードとしたいと思います」
このアンケートは、収入から年金・介護問題、政治参加の意思など、73項目におよぶ膨大なもので、「元全共闘」のネットワークを通じて、約3千人に発送された。
およそ1年をかけた地道な回収作業のなかで、得られた回答は全国86大学・高校全共闘体験者から526通。その回答のほとんどは、「思いのたけ」がびっしり書き込まれたものばかりであった。
そこで、アンケートにこめられたメッセージを読みやすく再編集して、世代を超えて発信し、世代を超えたネットワークづくりの契機とするために『全共闘白書』(新潮社)を、一方で回答は「歴史の証言」としても貴重な史料であるとの認識から回答全文を網羅した『資料編』が自費出版された。
前者の『全共闘白書』(新潮社)には、「アンケートの集計・分析」「回答者座談会」「“造反”教員のコメント」等が加えられ、いっぽう『全共闘白書・資料編』には「アンケート回答全文」に加えて、加藤一郎東大総長代行、村井資長早大総長、宮崎茂樹明大総長ら当時全共闘と「対決」した大学当局者のコメント、回答者から寄せられた往時の写真やビラ・機関紙など貴重な歴史的資料が収録された。
『全共闘白書』(新潮社)は、この種の硬派系としては破格の4万部超を売り上げ、マスコミに大きく取り上げられ、「日大930の会」の結成をはじめ、様々な「再会」が実現、「全共闘運動の歴史的意義」をめぐる議論にも資することになった。
そして、さらに四半世紀が経過、折しも全国の学園に全共闘運動の狼煙(のろし)が上がってから、丁度半世紀になったのを契機に、25年前、『全共闘白書』に関わった仲間から、「続編」を編纂して、前期高齢者に入った全共闘世代による「次世代へ向けたメッセージ」を遺してはどうかとの呼びかけがあり、全共闘運動50周年『続全共闘白書』編纂実行委員会が立ち上がった。
その「全共闘白書の続編」はこんなふうに呼びかけられた。
「時代状況はますます悪化と劣化に向かうなか、私たち全共闘世代もついに前期高齢者に仲間入りします。このまま『社会のお荷物』として座して消えゆくわけにはいきません。私たちならではの『社会的けじめ』をつけ自覚と覚悟をもって旅立ちたい。そのために再びアンケートを実施、私たちの来し方と残り少ない行方を見つめ直すと共に、前回同様出版化して社会に発信します。おそらくこれが私たち全共闘世代の『遺言』となるでしょう。今一度のご協力をお願いいたします」
こうして、前述の東大安田講堂でアンケートが配布され、「続全共闘白書」プロジェクトのスタートが切られたのである。
設問は前回を上回る75項目。
前回との「経年変化」の比較も必要だろうとの判断から、
・全共闘運動に参加した理由
・全共闘運動に参加したことへの自己評価
・その後運動から距離をおいた理由
などの“回顧的設問”を残す一方、
・結婚・離婚歴
・収入、資産状況
・持家か借家か、戸建てかマンションか
などの「私生活」に踏み込んだ設問につづいて、
・年金・介護
・墓や葬儀などの終活
など、「後期高齢者」を目前に控えた世代的テーマ、さらには、
・民主党政権(2009〜2012年)
・安保法制
・天皇退位
・トランプ政権
・安倍政治と憲法改正
など、前回以降に生じた諸問題への評価を加え、最後に、
・次世代へのメッセージと遺言
を「自由表記」とし、あわせて「辞世の句」を募集する。
この膨大かつ公私にわたって踏み込んだ設問群に、いったいどれぐらいの「元全共闘」が、どのようにこたえるのか?
事務局でも、不安と期待を二つながら抱きつつ、東大安田講堂のイベント以降、A4で8ページにわたるアンケート用紙を「元全共闘」のネットワークを通じて約3千人に郵送、いっぽうでホームページを設けてネットでも回答できるようにと約2千のメールを拡散したところ、第1次締め切りの3月末までに、郵送・ファクスによる手書き回答とウェブから、200を超える回答が寄せられた。
そのうち「手書き回答」が約半数で、順次入力中だが、現時点で148回答が集計できたので、以下にそのさわりを紹介したい。
*
まず出身校別内訳だが、47大学138名、9高校9名、1中学1名。大学別回答者数では、東大25、日大18、明治11、早大8、法政7、中大6、同志社5、京大4、東工大4、関大3・・とつづく。なお中学は現世田谷区長の内申書問題で火を噴いた麴町中学校である。
それでは75の設問の中から、「元全共闘」の現況と近未来が浮かびあがってきそうな集計結果をいくつかご紹介しよう。
設問1の「全共闘運動にどうような形で参加したか」だが、「活動家として」が88人、「一般学生として」が50人(その他7人)。つまり「確信派」が6割という「初期条件」を頭に入れた上で、以下の回答概要をごらんいただきたい。
設問3の「全共闘運動に参加したことをどう自己評価するか」には101人が「誇りに思う」(84.5%)。
さらに「運動参加の評価」(設問10)には「その後の人生の役に立っている」が125人(68.2%)。
設問5の「革命について」は「当時起こると信じていた」が60人(40.5%)。
設問9の「運動を辞めた理由」は「内ゲバ」48人、「就職」26人、「無力感」18人。
「最期をどこで迎えたいか」(設問30)には「自宅」71人(48%)に対して「病院」27人(18.2%)。
「延命治療」(設問31)は「望まない」が132人(93.2%)。
「憲法」(設問45)は「堅持」104人(70.3%)、「何らかの改定」27人(18.2%)、「加憲」9人(6.1%)。
「安倍政権下の改憲」(設問47)にはほぼ全員の141人が「反対」(95.3%)。
「選挙」(設問56)には「いつも行く」114人(77%)、「時々行く」26人(17.6%)。
「支持政党」(設問57)は「立憲民主」77人(52%)についで「自民」13人(8.8%)、「共産」10人(6.8%)。
「民主党政権の評価」(設問62)には130人(87.8%)が「期待した」(「大いに」59人、「少しは」71人)。
「“平成”天皇」(設問65)は「評価」97人(65.5%)。
「東京五輪」(設問66)には「全く評価しない」が102人(68.9%)。
さて、以上から、半世紀を経た元全共闘たちの実像が浮かびあがってきそうだ。
すなわち当時「バリバリの活動家」であれ、「一般学生」であれ、どうやら“今なお意気軒高な人々”のようであるらしい。また、時代状況の変化をうかがわせて興味深いのは、「“平成”天皇」について7割近くが「評価」している点である。
今後回答数が増えると、「全共闘運動」が歴史の闇の中から立体的をあぶり出される可能性が期待される。そこで着目すべきは、全共闘体験者の大半は、戦後昭和22〜25年に生まれた堺屋太一の命名による「団塊世代」と重なってはいるが、果たしてその「傾向と嗜好」は同質かどうかである。
現在、厚労省は、「団塊世代」が後期高齢者入りする「2025年問題」に向けてさまざまな調査を実施、対策を講じようとしているが、700万人ともいわれる「団塊世代」がおとなしくあの世に逝ってくれるとはかぎらない。50年前と同じように、その中のほんの一握りの「全共闘世代」が“最後のひと暴れ”をするかもしれないからだ。
ちなみに「今後政治参加の意思があるか」(設問66)には、過半数を占める80人が「ある」(「なし」48人、「不明」17人)と答えている。
また、設問70では「団塊世代としての課題」を問うているが、有効回答92のうち、原発撤廃など何らかの社会変革を上げているものが48と過半数をしめ、「ハッピーリタイア生活」44を上回っている。さらに、設問71の「何歳まで生きるつもりか」には有効回答79のうち、「80歳以上」が61、うち「90歳以上」が26もあるのは、「元全共闘」がまだまだ「やる気十分である証し」と言えないだろうか。
超高齢社会日本の「近未来」を考える意味からも、このアンケートの最終結果は大いに注目される。
他にも回答状況から興味深いことが見えてくる。
本アンケートでは年収・年金・住宅環境を具体的な金額にまでわたって問うているが、そこからは、「元全共闘」にも、いや「元全共闘」ゆえにか、極端な格差と二極化が見られる。
また、「すでに数年前に当人は死去したので回答できない」あるいは「当人は重篤な病にあるので回答できない」といった返信が配偶者からいくつも寄せられている。中には、「死んだ夫に代わって私が回答します」という泣かせるものもある。いずれにせよ、「あれから」経過した半世紀という矢の如き光陰をつくづく実感させられる。
さらには、思いもかけない「場所」からも回答が寄せられている。徳島刑務所に収監中の和光晴生氏と八王子医療刑務所の重信房子氏からである。共に日本赤軍の幹部で、和光氏は1974年のシンガポール、ハーグ、1975年のクアラルンプールのハイジャックに関与したとして無期懲役となり服役中。重信氏は同上のハーグ事件の共謀共同正犯として20年の懲役判決をうけ服役中である。
どちらの回答にも、思いのたけがびっしりと綴られている。
さて、今後の展開だが、3月末の第1次集約をうけて、集計結果をまとめて中間発表を行い、新たな回答者を求めていきながら、6月末に最終集約を行う。
あわせて、全共闘体験者の著名人にも回答を求めていく。
これらの回答の集計結果をもとに、7月〜9月にかけて、若い世代の論客もまじえてシンポジウムを開催、その成果も盛り込みながら、秋を目途に出版化、次世代へ向けたメッセージを発信していきたい。
四半世紀が経過したため、前回回答者の半数が「宛先不明」で戻ってきて連絡がとれない。さらに本プロジェクトの発信力を高めるために、前回並みの500超をめざしたいので、さらに多くの全共闘体験者の参加を呼びかけている。
詳細は、ホームページへアクセススするか、事務局へ。
<問い合わせ先>
全共闘運動50周年『続全共闘白書』編纂実行委員会
メールアドレス:zenkyoutou@gmail.com
ティエフネットワ-ク気付(担当・前田和男)
文京区本郷2-38-21アラミドビル6F
TEL03-5689-8182 FAX03-5689-8192
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