親を悩ます「PTA問題」 前川喜平さんに聞いた
前文科省事務次官が考えるPTAの実態と学校・地域との関係とは
前川喜平 元文科省事務次官 現代教育行政研究会代表
PTAは公平中立な任意団体であり、法律的に設置されているものではありません。それなのに、厳然と存在する「PTA問題」。その舞台である「学校」を所管する文科省は、PTAとどうつきあい、どう見ているのでしょうか。
5月18日に東京で開かれる「PTAフォーラム」を前に、前文科省事務次官・前川喜平氏に聞きました。(聞き手 堀内京子・田中聡子 朝日新聞記者)

前川喜平さん
強力な日P1千万会員の政治力
――長い間、小中学校の保護者たちにとってPTAは悩みの種でした。入るのも入らないのも自由な、任意団体だということが、新聞記事やSNSなどで知られるようになった現在も、PTAの現場では「一人一役」「役員免除のための儀式」と言われるようなローカルルールや、実質的な強制参加の枠組みが存在し、頭を抱える保護者が絶えません。ですが、文科省は「PTAは任意団体だ」と言うだけで、こうした問題の解決に積極的に動いているようには見えません。文科省にとってPTAとはどういう存在なのでしょうか。
前川 PTAは、私が長く関わった初等中等教育局(幼小中高の学校を所管)の所管ではなく、かつての社会教育局、最近までは生涯学習政策局、今は総合教育政策局の所管です。だから私は、PTAや、その全国組織である「日本PTA全国協議会」(日P)そのものを所管する立場になったことはないですが、日Pに一番お世話になったのは、何といっても2003~06年の小泉内閣の「三位一体の改革(注)」のときに、義務教育の学校の人件費を支えている「義務教育費国庫負担金」を守るため、一緒に動いてくれたことです。
(注)三位一体の改革
国の負担金・補助金を減らし、地方の税財源を増やす改革。しかし、地方交付税と補助金負担金が減るので、地方の財政は苦しくなる結果になった。
義務教育費国庫負担金は、全国どこで生まれ育っても、一定の教育水準を受けられるようにするための財源で、私は当時、担当課長でした。廃止させまいと、教職員組合や校長会など教育関係23団体が一緒になって闘ってくれたのですが、一番、アピール力が強かったのが日Pですよ。
文科省や教職員たちが廃止に反対しても『自分たちの権益を守っているんだろう』と言われてしまうけれど、日P会長が政治家に要望書を持って回ってくれたり、PTAの大会で、「義務教育費国庫負担金がなくなったら困るのは子どもなんですよ」と保護者の立場で主張してくれたりするのはありがたかった。
――やはり、PTAが日本で最大の社会教育団体で1千万会員(会員数が多かった80年代は1000万以上の会員を誇っていた。現在は850万人)というのは大きいでしょうか。
前川 それはもうやっぱり、1千万会員はとりもなおさず有権者だから、政治にアピールする力は大きいですよ。教員ですら100万人にしかならない。政治を動かしたいと思ったら、日Pに動いてもらうのがいい。日Pの働きのおかげで、負担率は下げられたものの、最終的に義務教育費国庫負担金という制度を守ることができた。政治を動かすことができたんです。
特に与党の政治家は、日Pのいうことには一目置くんです。なぜ与党の政治家がそうなのというと、日PやPTA連合会の役員に、もともと与党(自民党)に近い人が多いからじゃないか。自分の政治活動のための踏み台にしている人も多いと思う。