親を悩ます「PTA問題」 前川喜平さんに聞いた
前文科省事務次官が考えるPTAの実態と学校・地域との関係とは
前川喜平 元文科省事務次官 現代教育行政研究会代表
サラリーマンには難しいPTA活動
――学校単位のPTAでは分かりませんが、歴代の日Pの役員たちを見ていると、現役会員で都道府県のPTA連合会の会長、市や区の会長などを兼務する。つまり毎週のように何かしらの会合があるという条件のためか、子どもが2人以上いる男性がほとんど。不動産業とかお坊さんとか会計士など、自営業の人が目につきます。そして、例えば道徳や家庭教育など、PTA会員の中でも評価が分かれる方針についても、日P会長という肩書で推進のために青年会議所(JC)で講演してしまうということが起きています。
前川 確かに、PTAとJCって同じ人が重なっていることが多い。時間的に余裕のあるオーナー社長とか、自営業の人が多いんでしょうね。組織の一員で仕事しているサラリーマンには絶対に無理ですよ。PTA活動も、PTA連合の活動も。土日とか仕事終わりの夜だけでできる仕事じゃないですよね。
―――ほとんどのPTA会員は、自分がPTA連合会や日Pという上部団体の構成員に数えられているとは気がついていません。会費の一部が上部団体に納められていることも。PTAという装置を使い、役員さえOKすれば、あたかも日本の保護者全体が望んでいるように見せることも可能だという、怖さを感じていない。例えば、「発達障害は育て方のせいだ」という主張などが問題視されている「親学」についてのセミナーをPTA連合会が開くこともあり、これも保護者全体が「親学」に関心があるという風になりかねない。
前川 僕は「親学」は非常に問題があると思いますよ。発達障害が親のせいなどといっていたようで。「親学」は信用できません。家庭教育を学ぶ機会はあっていいと思うけど、ちゃんとした教育心理学などの専門家から学ぶべきです。
自ら考えて行動する人間を育てなかった文科省の教育
――教育委員会主催の講演会や、地域の防災訓練の炊き出し係などに、年間に何回参加するかを割り当てているPTAもあります。休日をつぶしてタレントの子育て体験を聞かされるのも苦痛ですし。PTAの動員を見込んだ教育委員会や地域の行事を企画してほしくないのですが。
前川 なんで、「イヤ」って言えないんですか?
――あっ、前川さんもそんなこと言いますか!? なんでイヤって言えないか?
前川 だって、敢然と「イヤ」って言う人だっているでしょう。
――それはいます。

前川喜平さん
前川 「同調圧力に負けてしまう」というけれども、負けるなよと。一人の人間だろうよと。いやもちろん、それはそう簡単じゃないとは分かりますよ、だけど、個の弱さっていうかね……、たどっていくと、文科省の教育が間違っていたってことだと思いますよ(一同爆笑)。
要するに、ちゃんと、一人の、自分で考えて行動する人間として育てなかったという。「皆さんがおっしゃるならしょうがないかな」とか、「皆さんが決めたなら従いますよ」というのは、後ろ指を指されたくないとか、同調圧力の中でハブられたくないという気持ちですよね。同じ行動を取らない人間を村八分にするというのは、いじめと同じ構造だと思います。本当は、「自分たちもつらい思いをしているのに、なぜあんただけ」ではなく、みんなで拒否すればいいと思います。でも、「みんなでPTAを辞めましょう」という人もなかなか出てこないんでしょうけど。
「無駄な行事」と声をあげるのも効果的
前川 「無駄な行事だ」って声をあげることも効果的です。教育委員会はよくも悪くも、なかなか変わらない組織。中立性、安定性、継続性が大事ですから。だから、何かを変えようとしたら、政治に訴えるしかないときもある。首長さんとか地元議会の議員に訴え、こういう教育委員会の主催事業は無駄な予算ですよね、税金の無駄遣いですよね、という攻め方があると思う。
ほんとうは教育委員が住民の声をもっと反映させないといけない。条例で教育委員の数を増やすこともできる。私は、住民の意思やいろいろな声を反映させるためには、公募制とか準公選制といった選び方を考えようと言っています。
――学校の教育費が少なくなっていて、賄いきれない分をうめるために、PTAの会費を流用するケースは広く見られます。図書館の図書、クーラー、研究教育発表会の雑費とか。学校改修のための仮設トイレ設置費用までPTA会費から出すと。保護者たちも「今、こういう教育財政だから仕方ない」と思わされている。
前川 それは極めて不正常な状態、本来、あってはならない状態ですよね。