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富山のどこがスウェーデンか?

大都市圏からのアウトサイダー視点による地方の描写

斉藤正美 社会学者、富山大学非常勤講師

富山の女性とクルマ、アウトサイダーによる思い込み

 しかしながら、氏が同書を書くに至った契機をめぐる考察、「共助」をめぐる考察については、根本的な疑問がある。まず、井手氏が富山に注目したきっかけとしてあちこちの媒体で繰り返し語っている、富山は「政治的に保守が強い地域」にもかかわらず、「通勤中の女性が驚くほど多いし、周囲を見回したらクルマを運転している人にも女性が目立つ」ことに驚いたというエピソードがある。井手氏は「一般的に保守というと、『男が働きに出て、女は家庭を守る』というイメージ」だというが、同氏は保守の女性はクルマも運転しないという先入観を持っていたのだろうか。

 富山県では公共交通が不便なので自動車に頼らざるを得ないのが実情だ。車で通勤する女性に井手氏がそんなに驚くのは、公共交通が発達し、共働き率が低い大都市圏に住んでいることに起因している可能性があるように思う。大都市圏の共働き率は、関東では千葉県43位、埼玉県40位、神奈川県41位、関西では大阪府46位、奈良県最下位などと総じて低い。また井手氏は、富山女性について「みんな軽自動車じゃなくて、結構立派なクルマに乗っている」(『週プレNEWS』2018.10.3)と話しているが、軽自動車には私も乗ってきたし、今も周りには乗っている女性は多い。富山県の軽自動車比率は28位と全国的に見ても特段低いわけではない。井手氏は実際に調査したわけでもなく、たまたま見た光景に基づき印象論で語っているようである。

 そもそも朝通勤時間帯に富山駅前を走る女性ドライバーを「通勤女性」と井手氏がみなしていることも、井手氏が駅周辺に会社が集まっている鉄道を中心に発展した大都市圏に住んでいるゆえの偏見である。マイカー通勤が多い富山では、企業や工場は鉄道の駅近辺より、企業団地など郊外に立地しているケースが多いため、実際には朝、混み合う駅前を通勤のためにわざわざ車で通る人がそう多いとは考えにくい。駅前を女性が通るとすれば、電車で通学や通勤する子どもや夫などを駅まで送迎するケースが多いのではないかと推察できる。

 そうした地域ごとの事情を斟酌することなく「女性の通勤姿が多い」と軽く断定する井手氏は、富山を大都市圏に住むアウトサイダーの視点で分析し、アウトサイダー として得た知識に基づいて富山を実像以上に美化し、理想化したモデルとして描いていないか。これでは、他者化された富山を見ているようで、富山に住む女性の一人として決して納得できるものではない。

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筆者

斉藤正美

斉藤正美(さいとう・まさみ) 社会学者、富山大学非常勤講師

社会学者。富山大学非常勤講師。お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士後期課程人間発達学修了。博士(学術)。専門は社会学のほか、フェミニズム、メディア研究。共著に、『社会運動の戸惑い——フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』(勁草書房)、『まぼろしの「日本的家族」』(青弓社)、『国家がなぜ家族に干渉するのか』(青弓社)、『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩書房)などがある。目下、『田嶋陽子論(仮)』を山口智美氏と共同執筆中。学問および運動としてのフェミニズムの歴史や理論を発信するフェミニズムの歴史と理論サイトを共同運営している。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです