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富山のどこがスウェーデンか?

大都市圏からのアウトサイダー視点による地方の描写

斉藤正美 社会学者、富山大学非常勤講師

「家族」への憧憬 「あったか家族」「富山型デイサービス」

拡大子どもも高齢者も障害のある人も一緒に過ごす富山型デイサービス「このゆびとーまれ」=富山市富岡町

 次に、同書で問題だと思うのは、井手氏の「家族」に関する考察だ。井手氏は、「祖父母や地域を取り込み、家族の役割を地域社会にひらいた」、「日本の共同体主義を経由してしか北欧モデルは実現できない」(「批判浴びても「富山は日本のスウェーデン」」朝日新聞、2月26日)と富山の3世代同居と共同体を評価し、富山をスウェーデンに喩える。だが、富山の家族が性別役割分担や性差別の上に成り立つ「共同体」であるという内実には関心を示していない。

 例えば、同書に「家族のように支え合い、地域で学び、生きていく」富山の政策事例と称賛されている射水市の「あったか家族プロジェクト」であるが、同市青年会議所メンバーが演じる「あったか家族」寸劇では、妻と娘に家事をさせ、夫はご飯ができたら着席するという性別役割分業家族が称揚されている。富山では共働き率が高いにもかかわらず、実際に妻が家事を主に分担するという家庭は約8割に上るなど、女性が家事育児をするという役割分業が強固なまま、外に働きにも出ているのが実情だ(平成27年度富山県男女共同参画社会に関する意識調査結果)。「家族の原理」を軸とした社会をめざすのはよいが、家族の機能の再構築を目指さず、現状維持の政策では社会の持続すらおぼつかない。

 また、同書では、年齢や障害の有無にかかわらず、誰もが身近な地域でデイサービスを受けられる「富山型デイサービス」も称賛されている。理想郷のように言われ全国から視察が盛んな富山型デイサービスだが、現実的には大半が介護報酬の削減により低賃金と重労働に追い込まれている。育児や介護サービスは、必要で必須であるにもかかわらず、担い手の待遇が非常に悪い。「家族のように支え合う」ことを良いと思うのであれば、

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筆者

斉藤正美

斉藤正美(さいとう・まさみ) 社会学者、富山大学非常勤講師

社会学者。富山大学非常勤講師。お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士後期課程人間発達学修了。博士(学術)。専門は社会学のほか、フェミニズム、メディア研究。共著に、『社会運動の戸惑い——フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』(勁草書房)、『まぼろしの「日本的家族」』(青弓社)、『国家がなぜ家族に干渉するのか』(青弓社)、『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩書房)などがある。目下、『田嶋陽子論(仮)』を山口智美氏と共同執筆中。学問および運動としてのフェミニズムの歴史や理論を発信するフェミニズムの歴史と理論サイトを共同運営している。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです