田中聡子(たなか・さとこ) 朝日新聞オピニオン編集部記者
2006年、朝日新聞社入社。盛岡総局、甲府総局、東京本社地域報道部、文化くらし報道部を経て、20年からオピニオン編集部。PTA、二分の一成人式などの教育現場の問題のほか、自治会など地域コミュニティーへの動員などについて取材している。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
PTAにおける保護者の負担軽減を掲げて当選した越田謙治郎・兵庫県川西市長に聞く
「『やらない』なんてずるい」「子どものためでしょう?」。
PTAには保護者を追い詰めるそんな言葉が渦巻いています。「平等に負担しているかどうか」の相互監視や、前例踏襲を乱すことを許さない同調圧力は、精神的にも肉体的にも保護者の大きな負担となってきました。
ほとんどの保護者が関わる大きな問題にもかかわらず、「学校から独立した任意の団体」であるPTAの問題は、いつも「保護者間の問題」にとどまってきました。そんな中、選挙のマニフェストに「保護者の負担軽減」を掲げ、PTA問題を政治マターにしたのが、兵庫県川西市の越田謙治郎市長(41)です。
この夏ごろに市に「PTAのあり方検討会」を設置する予定で、役員経験者や校長、有識者らにPTAの運営について議論してもらい、モデル的なPTA活動を市民に示すといいます。果たして、現場のPTAが変わるきっかけになるのでしょうか。越田市長に聞きました。(聞き手・田中聡子 朝日新聞記者)
越田 謙治郎(こしだ・けんじろう) 兵庫県川西市長
1977年生まれ。同志社大卒。教育関連の出版社勤務後、2002年、25歳で川西市議に初当選。2011年、兵庫県議に転身。18年10月の市長選で川西市長に初当選。
――なぜマニフェストに「PTA」を入れたのですか?
マニフェストを固めるために子育て世代の人と話していた時、「PTAをなんとかしてほしい」「PTAが大変や」って話があったんです。子育て世代だけでなく、各地のPTA経験者からも「なんとかするべきじゃないの?」という声がありました。地域や単P(学校単位のPTA)にもよるけれど、「役員が決まらないと帰れない」とか、「役員をできない理由を、みんなの前で発表しないといけない」とか、多くの人が不満を抱えて「しんどい」と感じていました。
かつては地域に自営業者がいっぱいいて、保護者もいっぱいいて、共働きではなくても生活できました。そんな「元気な自営業の男性と専業主婦がたくさんいる」社会でPTAは続いてきたのでしょう。
ところがいまは、自営業者は減り、男性も女性も働きに出ています。少子化で保護者の数そのものも減っています。それなのにPTAは基本的に同じことを続けている。
「本当にこれ、必要?」と思っている活動でも、「変えたい」と言うと「自分でやれ」って言われかねない。「それなら1年間我慢しよう」となって、いつまでも変わらないんです。だったら長期的に取り組める行政がなんとかしよう、と。
――「PTA会長」という肩書で選挙に出た人はたくさん知っていますが、PTAの活動内容に疑問を呈するようなことを掲げて選挙に出た人は、これまで聞いたことがありません。
子育てで直面する課題は、子どもの育ちに応じて変化し続けます。妊娠中の産科医不足から始まり、医療費助成や待機児童問題。保育園に入れたら「待機児童解消」とは言わず、教育やいじめの問題へと移る。そして中学生になると学校給食。子育て世代には、実は共通するキーワードがないんです。それが子育てに予算がつきにくい要因でもあると感じます。
ところがそんな中、どの段階でも課題になるのが、実はこのPTAです。幼稚園・保育園の保護者会から中学、高校まで、ずっとかかわり続けることもある大きな問題。それなのに、政治はこれまで「学校と別の組織だから」という理由で放置してきたのです。
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