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PTAを「保護者が学校にモノ申す場」にした2人

校長とPTA会長はどうやって改革を進めたのか? 改革は広がるのか?

田中聡子 朝日新聞オピニオン編集部記者

 運動会の受付、バザーの準備、ベルマーク集め――。ともすれば「学校の嫁」のような扱いをうけるPTAを「保護者が学校にモノ申す場」に変えた学校があります。

 神戸市立・本多聞(ほんたもん)中学校。

 6年前に改革に着手し、PTA役員が定期的に校長に直接意見を言う場を設けたところ、押し付け合いだった本部役員が立候補で決まるようになったと言います。

 改革の中心となったのは、校長だった福本靖さん(57)とPTA会長だった今関明子さん(50)。「変えようとしても思うように行かない」「変える方が大変」となかなか進まないことが多いPTA改革は、なぜうまくいったのか。2人に聞いてみました。

福本靖さん〔右)と今関明子さん

発想を変えないといけないのは校長

――PTA改革は、なんとか「変えよう」というところまでたどりついても、校長の反対で進まないという話を何度も耳にしました。「面倒を起こさないでほしい」という考えなのでしょうか。そんななか、校長主導で改革したというのはきわめて異例のケースです。

福本 PTAについて、発想を最も変えなければいけないのはやはり校長ですよ。教員の多忙化が問題になっているように、このままでは学校現場は持たないでしょう。そう分かってはいても、教員が増えるわけではないので、多くの校長は具体策を描くことができていないと思います。でも、子どもたちのための学校運営という視点で考えれば、PTAが欠かせない存在だと分かるはずです。

 とはいえ、それはいわゆる「お手伝い」ではありません。「子どもたちのために、親と学校が議論し、協力する」ということです。そのために設けた「運営委員会」です。学校が保護者に意見を求め、保護者から学校へ疑問や意見を言う場です。PTAは保護者と学校がざっくばらんに意見交換できる貴重な存在になりました。

今関 私はそもそも、PTAで親がいやな思いをするのをなくしたいと考えていました。くじ引きして役員を決めるくらいなら、なくせばいいのに、と。そういうPTAを「変えたい」「おかしい」と思っていたのが私で、異なる視点から「変えたい」と思っていたのが福本先生でした。

――問題意識は違ったのですね。

今関 そうなんです。お互い、旧態依然のPTAを「いややな」と思っていたのは同じ。でも、問題だと感じていることは違ったんです。私は目先の「強制をやめよう」ということだけだったので、福本先生の「学校運営に保護者を巻き込まないといけない」というスケールの大きな話を聞きながら、内心では「で、役員決めのくじ引きは賛成なん?」なんて思っていたんです。

二つの思いが結びついた「エントリー制」

――結果的に、PTAの仕事を強制的に割り振るのではなく、手挙げ方式のエントリー制になりました。

今関明子さん
今関 エントリー制は「仕事を担う」ことが大事なのではありません。学校とかかわるきっかけにしてほしかったんです。活動を見直して負担を減らすことでPTAに参加するハードルを下げ、運営委員会に足を運ぶことにつなげたかった。

 ポイント制(活動ごとの負担感をポイント化し、「卒業までに○ポイント」などのルールを定めて活動を事実上強制する仕組み)で保護者を縛ったり、役員をくじ引きで決めたりするのって、活動を完遂することが目的化し、「子どもたちのために」からかけ離れてしまっています。本部役員を長年務めて、役員が自己満足になったら恐ろしいと強く感じました。自己満足のために保護者を縛り付けることが、本部役員にはできてしまう。そういう姿を見て「PTAは怖い」と弱い立場の保護者が言うくらいなら、そんな怖いPTAはなくていいと思いますね。

福本 保護者の「いやな思いをしたくない」と、僕の「教育環境のためには保護者の意見を採り入れるしかない」という二つの思いがたどりついた結論だったんです。もともと、「PTAがいなければできないようなことは、やめればいい」と考えていました。PTAの上部団体や地域団体が、PTAを「都合のいい組織」として動員するのもおかしいと考えています。

 ただ、これまでPTAというと、強制加入や会費の取り方の問題といった点からばかり問題提起されてきました。そういう問題の解決は、たとえるなら、ばんそうこうを貼るようなもので、根本的な治療ではない。では、根本的な治療とは何か。それは「子どものために、親と学校は何ができるのか」という原点を問うことだと考えました。

――保護者の「いやな思いをしたくない」には、鈍感な校長も多いようです。

福本靖さん
福本 「PTAが理不尽だ」という保護者からの訴えだけでは、保護者間の話だけにとどまってしまい、響かないことも多いでしょう。だったら、校長の仕事である「学校運営」という観点から訴えることです。

 課題が山積する教育現場に保護者の考えを反映させないと、学校運営が立ちゆかなくなることは明らかでしょう。形式や体裁を整えることに精いっぱいになるのではなく、子どものことを一番大事に考える校長には響くはずです。子どもと毎日一緒に過ごしている親は学校運営から外せないのですから。

 「PTAは学校と別の組織」と我関せずの校長もいるようですが、そんな理屈は通用しませんよ。別組織と言っても、学校がなくなればその学校のPTAはなくなるんですから、事実上、学校の一部でしょう。公職としてそこで仕事をする校長にとって、PTAは「別組織の問題」ではありません。

学校運営に興味を持ってもらいたい

――「学校運営に保護者が協力」という言葉は、とらえようによっては「動員」されそうで、警戒をしてしまいます。教員の多忙化などで、動員に拍車がかかりそうなご時世でもありますので。

福本 国が家庭や地域社会の「教育力」を強調するようになり、「負担が増える」と身構えてしまう気持ちも分かります。ずいぶん気軽に「家庭」なんて言ってますが、あれはどうしようもなくて困っていていい方法がないから、「地域」とか「家庭」とかファジーな言葉で表現しているだけでしょう。私が言っているのは、要は「学校運営を家庭に返す」ということです。保護者が学校運営に興味を持ち、参加してくださいということです。

本多聞中の改革の際に配布したプリントや資料

 本多聞中でも、いまの学校でも同じ仕組みを採り入れていますが、学校の意思決定が見違えるほどスムーズになります。たとえば、毎年4月の家庭訪問を、今年度は希望制にしました。2月の委員会で私から「いりますかね」と問いかけたら、「もういいんちゃう」という意見が多かった。そこで保護者に意見を聞くと、希望したのは1割。「じゃあ、やめよう」と。先生も保護者も負担がぐっと減りました。

 運営委員会がなかったらどうでしょうか。学校だけで「やめます」と決めて、結果だけを保護者に伝えたら、必ず反発があります。ばらばらに来る保護者からの質問に、教員が対応しなければなりません。

 今はテスト範囲や女子のズボンについても話し合っています。いろいろな意見を一度に聞けるので、すごく効率よく意思決定ができるんです。

――学校に意見をすると、すぐに「クレーマー」扱いされることもありますよね?

福本 クレームと要望は違います。保護者が学校に要望するのは、至極当たり前のことですよ。公立学校の場合、原則的には保護者は学校を選べないわけです。私たちは、その学校に仕事でやってきている。保護者が要望し、学校が要望に耳を傾ける。何の問題があるのでしょうか。

改革を波及させたいが……

――周りの学校に、改革は波及していますか?

本多聞中を離れた2人だが、いまもPTA改革を広めるための活動を一緒に続けている
今関 興味を示した関係団体や近隣の学校には話をしてきたのですが、実行の段階でなかなかうまくいかないようです。「このままだとせっかくの改革が埋もれてしまう」「もっと大きな流れにする必要がある」と思い、報道機関に投稿したり、呼ばれれば講演会に出て行ったりしています。各地から手紙やメールの相談がくるようになり、アドバイスもしてきました。でも、うまくいった事例が少ないんですね。既存の壁を破るのは難しいようです。

福本 偶然の産物でできたのかもしれない改革でしたが、これからの学校にはこれしかないだろうという自信があります。「校長次第」のPTAではなく、ある程度標準化してほしいと思い、この春、二人の経験を本にまとめました。少しでも多くの人に目を通してもらい、考えてほしかった。

 特に、校長には考えてほしい。校長は、学校の実態を把握することが最大の仕事です。目の前の生徒や保護者は、日々変化しています。その変化のスピードは、昔の比ではありません。どんな批判であっても、聞いておいてマイナスの批判はありません。教員への苦情だって、陰で言われるよりどれだけありがたいことか。PTA改革は、これからの時代の学校改革なんです。

福本靖(ふくもと・やすし)
1961年生まれ。神戸市在住、神戸大学教育学部卒。神戸市内の公立中3校の勤務を経て、2008年より教頭、教育委員会事務局指導主事、校長などを歴任。現在は神戸市立桃山台中の校長。
今関明子(いまぜき・あきこ)
1968年生まれ。神戸市在住、2男1女の母。2009年より神戸市立本多聞小で4年間、本多聞中で3年間、PTA副会長と会長を歴任。福本さんとの共著書に『PTAのトリセツ~保護者と校長の奮闘記~』(世論社)

【お知らせ】
 PTA問題を取材してきた記者たちが、5月18日に「PTAフォーラム」を企画しました。PTA問題に切り込む現役市長や校長らによる講演やグループディスカッションのほか、憲法の視点からPTA問題を発信する木村草太さんへの質問コーナーもあります。終了後、懇親会も予定しています。詳細は以下の通り。

◇日時 5月18日(土) 午後2時半~6時
◇会場 東京・築地の朝日新聞東京本社2階読者ホール
◇申し込みは「こちら」から。参加費2千円。
◇主催:PTAフォーラム実行委員会 後援:論座、東京すくすく(東京新聞)、朝日新聞#ニュース4U
◇問い合わせ ForumPTA2019@gmail.com