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平成の「負のレガシー」をどう乗り越えるか  

令和新時代の幕開けに考える

柴山哲也 ジャーナリスト

「令和」という元号の決定に関する問題点

拡大新元号「令和」の書を傍らに、記者会見する安倍晋三首相=4月1日、首相官邸、代表撮影

 まず令和という元号が決定されたプロセスやこの元号の出典や意味を報道に基づいて疑問点を振り返っておく。

 史上初の国書由来と安倍首相が胸を張る「令和」に込められた意味とはなにか。国書にこだわる思惑には、ナショナリストの安倍首相の影響がちらつく。

 周知のとおりこれまでの元号は中国古典から採用されてきた。日本国書からの採用が望ましいと安倍首相の強い要望が出され、漢籍からの候補も出たものの選ばれた出典は国書『万葉集』だった。

 4月1日、「令和」を発表した菅官房長官は記者会見で出典と意味をこう説明した。

 「『令和』は『万葉集』の梅花の歌、三十二首の序文にある『初春の令月(れいげつ)にして、気淑く(きよ)風和らぎ(やわらぎ)、梅は鏡前(きょうぜん)の粉(こ)を披き(ひらき)、蘭(らん)は珮後(はいご)の香(こう)を薫(かお)らす』から引用したもの」。

 「令」は令月にかかり、「和」は風和らぎにかかる和だから、いわば別の文脈の中にある漢字をつないだ形になっている。従来の元号は一つの単語として中国古典から採用されていたと思っていたので、万葉研究の第一人者とされる中西進氏の考案ならもっとはっきり独立した言葉を選ぶのではないかと私は考え、専門家ではないものの、違和感が残った。

 中国思想史専門の小島毅・東京大教授は、「令和」に対するいくつかの違和感をこう指摘した。

 まず読み方。『令』を漢音で読めば「れい」だが、比較的古い呉音(ごおん)なら「りょう」だ。小島さんは「当時の法制度は『律令(りつりょう)』や皇太子や皇后の出す文書は『令旨(りょうじ)』。大宰府の『万葉集』の観梅の宴を主催した大伴旅人(おおとものたびと)が想定したのは呉音だっただろうから、『りょうわ』でもよいのでは」という。アルファベット表記についても「Reiwaより実際の発音に近いLeiwaにしたらどうだろう」。

 小島教授は、漢字2字の組み合わせにも異を唱える。「初春令月、気淑風和」から意味をなす2字を選ぶなら「淑和」もしくは「和淑」だという。「令」は「よい、めでたい」という意味で「月」を修飾する。「和」は「(風が)穏やかになる」という意味。「令と和には直接の関係がなく、結びつけるのは無理がある」。『書経』の「百姓昭明、協和万邦(百姓〈ひゃくせい〉昭明にして、万邦〈ばんぽう〉を協和し、〈後略〉)」に基づく昭和も二つの句にまたがるが、国内を意味する「百姓」と外国を意味する「万邦」が対になっているので意味は通る。これに対して「令和は無理やりくっつけている感じがする」という。(以上、小島教授の話は朝日新聞デジタル版、4月10日付から引用)。

 また岩波文庫編集部は新元号発表の4月1日当日のツイッターで以下のような投稿をしている。

「 新元号「令和」の出典、万葉集「初春の令月、気淑しく風和らぐ」ですが、『文選』の句を踏まえていることが、新日本古典文学大系『萬葉集(一)』  の補注に指摘されています。

「「令月」は「仲春令月、時和し気清らかなり」(後漢・張衡「帰田賦・文選巻十五)」とある。」( 岩波文庫編集部ツイッター4月1日)。

 要するに、「令和」は中国・後漢の張衡の「帰田賦・文選巻十五」に原典があり万葉集はそこから借用していたというわけだ。『万葉集』は国書ではあるが、原典はやはり中国にあるという話になる。

 これに対して中西進氏は朝日新聞のインタビューでこう反論している。(このインタビューの時点で中西氏は自分が考案したことは認めてはいない)。

 「令和の典拠である万葉集の『梅の花の歌の序』は、九州の大宰府に役人ら32人が集まって開かれた梅花(ばいか)の宴についての説明文です。誰か一人が歌を詠んでいるのではなく、32人が歌を通して集い、心を通じ合わせている姿。その和がいいと思います」。(朝日新聞デジタル版 4月20日付)

 ところで、新元号「令和」が発表されると欧米やアジア諸国からも素早い反応があった。長い伝統のある皇室を維持し、

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筆者

柴山哲也

柴山哲也(しばやま・てつや) ジャーナリスト

同志社大新聞学科大学院を中退後、1970年に朝日新聞記者となり94年に退社。ハワイ大学、シンクタンク東西センター客員研究員等をへて京都女子大教授、立命館大学客員教授。現在はフリーランサー。著書に『日本型メディアシステムの興亡』(ミネルヴァ書房)、『公共放送BBCの研究』(同、編著)、『新京都学派』(平凡社新書)、『真珠湾の真実』(平凡社新書)等。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです