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NGT山口真帆「卒業」でも終わらないもの

握手で栄えし48 悪手に滅ぶ?

竹内一晴 ジャーナリスト

NGT48を「卒業」した山口真帆=2018年4月14日拡大NGT48を「卒業」した山口真帆=2018年4月14日

「黒い羊」に託された山口の思い

 新潟を拠点とするアイドル・グループNGT48の山口真帆が5月18日、新潟市内のNGT48劇場でグループを「卒業」した。一緒に去ることになった菅原りこ、長谷川玲奈と3人で臨んだ「太陽は何度でも」公演をもってアイドルとしての活動を終えた。

 だが、この卒業が山口らの納得ずくではないことは明らかだ。同公演の本編ラストでは欅坂46の「黒い羊」(作詞・秋元康、作曲・ナスカ)を歌唱した。他のグループの曲でありながらあえて選んだのは、その歌詞が山口の境遇、本当の思いを体現していたからだろう。彼女はこの日の公演内でのトークで運営批判をしなかった。この曲の歌唱とパフォーマンスにすべてのメッセージを込めたのだろう。歌詞にはこんなフレーズがある。

「僕だけがいなくなればいいんだ/そうすれば止まってた針は動きだすんだろう?」
「目配せしてる仲間には僕は厄介者でしかない」
「納得できないことばかりだし諦めろと諭されてたけど」

 そう、「卒業」によってまさしく山口真帆は「厄介払い」されたのだった。それは、この間の経緯を見れば明白で、今後、人権侵害(不当な退職勧奨)の観点からも論じられるべきだろう。まずは事件を振り返ってみたい。

 昨年12月に山口がファンから暴行される事件が発生。男2人が逮捕されたが不起訴となった。山口はNGT48などAKB48グループの運営会社AKSの現場責任者だった今村悦朗・NGT48劇場支配人(当時)やAKSに対して再発防止などの対処を求めた。しかし、一向に実践されないことに業を煮やし、SNSを通じて涙ながらに告発。彼女が非常手段に打って出たことによって事件は明るみに出た。この問題は日本だけでなくCNNなどの海外メディアも大きく報道した。AKS側から何ら発表もない一方で、告発した被害者が謝罪をする異常性に世界中の人々が戦慄した。

 暴行事件については加害者と私的な交流(「つながり」と称され、メンバーも禁止行為として認識)があったとされた一部メンバーの関与も疑われ、特に山口はその点を重視した。AKSは弁護士で構成された第三者委員会を設置して真相究明を委嘱したが、今年3月、委員会の報告を受けたAKSの松村匠取締役らの記者会見は要領を得ず、抜本的な再発防止策の提示もなかった。結局、AKSは被害者である山口に対して寄り添うことも、歩み寄ることもなかった。問題の解決よりも穏便な鎮静化、事件の風化を望む運営会社にとって、彼女は終始、「厄介者」だった。4月21日、約3カ月半ぶりに出演した劇場公演で山口は卒業発表をした。

 AKSの山口に対する酷薄な仕打ちはその時の説明からよくうかがえる。捨て身の告発で正義の実現を求めた山口に対して、AKSの吉成夏子社長は「不起訴になったことで事件じゃないということだ」とこれ以上固執しないようたしなめたという。だが、山口は一部メンバーによるファンとの近すぎる関係や暴行事件への関与を疑い、厳正な処分と対策を求める姿勢を崩さなかった。すると吉成社長は山口を「会社を攻撃する加害者」呼ばわりをしたというのだ。山口は「もうここにはアイドルをできる居場所はない」と判断して卒業を決意した。「今のわたしにNGT48のためにできることは、卒業しかありません」と言わざるをえなくなった山口の無念は察するに余りある。被害者の立場ながら自ら勇気を振り絞って声を上げた者が救済されることなく、かえって職場を追われた。世の中の期待とは真逆の最悪の結末となった。

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筆者

竹内一晴

竹内一晴(たけうち・かずはる) ジャーナリスト

1970年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。大手芸能事務所、CS演劇専門放送局プロデューサー、写真週刊誌専属記者などを経て2004年からフリー。「週刊金曜日」「週刊東洋経済」などで報道・表現の自由、大学自治、韓国社会事情、カラオケ、アイドル等の記事を執筆。田島泰彦編『個人情報保護法と人権―プライバシーと表現の自由をどう守るか』に論稿掲載。