メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

[29]分断の時代におけるNPOの役割とは?

「共感獲得競争」の弊害を考える

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

連休中に「基金」を活用し10代の若者を支援

 クラウドファンディングは、6月15日まで継続中であるが、今年のゴールデンウィークは改元の影響で10連休となり、その期間は行政機関の機能が停止するため、その間に行き場を失う人が続出するのではないか、という懸念があった。

 そこで、ゴールデンウィークの初日の4月27日から「東京アンブレラ基金」の試験運用を始めたのである。

 その結果、連休中、「東京アンブレラ基金」を活用したケースが5件発生した。うち2件は、東京・池袋で路上生活者支援を行っているNPO法人TENOHASIが医療・福祉相談会に相談に来た路上生活者にネットカフェ代を支給したケースであり、残り3件は意外なことに10代の若者を支援する一般社団法人Colaboが「緊急宿泊支援」を実施したケースであった。

拡大「東京アンブレラ基金」キックオフ集会の参加者による集合写真

 Colaboの代表である仁藤夢乃さんは、5月12日に都内で開催された「東京アンブレラ基金」キックオフ集会の場で、その3件の支援ケースを報告してくれた。

 仁藤さんによると、3人はいずれも16~17歳の若者で、2人は女の子、1人は男の子だった。どの子も背景に親による虐待の問題があったという。

 3人はそれぞれ家出をしていたり、親から家を追い出されていて、友人宅やネットカフェ、住み込みの寮などを転々としていた。連休中は児童相談所も機能していなかったため、女の子2人はColaboが運営しているシェルターに泊まってもらい、男の子はネットカフェの宿泊費を支給した。

 うち1人の女の子は、Colaboのシェルターに置いてあるゲストブック(誰でも書き込めるノート)に「これまで夢とか、自分のやりたいことについて考えたことがなかったけど、そういうことも考えていいのかなと思うようになった自分がいる」という趣旨のことを書き込んでいたそうだ。

 Colaboでは、連休明けに児童相談所などの公的機関と連携をしながら、3人に対して継続的な支援を行っている。

 昨年度、Colaboの一時シェルターにおける「緊急宿泊支援」は、10代の女の子を中心に計47人、231泊にのぼった。Colaboでは中長期の宿泊のためのシェアハウスも6部屋用意しているが、今後、増設を計画しているという。

開始2カ月で480万円を超える支援金

 「東京アンブレラ基金」のクラウドファンディングは、大きな反響を呼び、開始から1週間で当初の目標額である200万円を突破した。

 開始から2カ月を経過した時点で、560人以上の方から計480万円を超える支援金が集まった。これは延べ1600泊以上の「緊急宿泊支援」を可能にする金額である。

 正直なところ、クラウドファンディングのキャンペーンを始める前は、十分な資金が集まるだろうかという不安があったので、嬉しい誤算となった。

 当初、懸念を抱いていたのは、「東京アンブレラ基金」の支援金の集め方が、NPO業界における寄付集めの常道からは外れるものだったからだ。

 寄付者の心理に関するアメリカの研究では、人々は飢餓や貧困といった社会問題に関する統計データを見せられるよりも、実際に苦しんでいる1人の人のストーリーに接した時の方が、寄付に前向きになる傾向があるという研究結果があるという。

 日本におけるNPOの寄付集めにおいても、「個人のストーリー」を前面に出すのが成功のもとであるというのは、よく言われることだ。

 だが「東京アンブレラ基金」は、それぞれ異なった分野で活動する諸団体が合同で実施するキャンペーンであり、ある寄付者が出した資金が、どの団体の「緊急宿泊支援」に使われるかは、あらかじめ決まっていない。

 「行き場のない10代の若者のために」と思って出した3000円が、実際には60代の路上生活者の男性や海外から逃れてきた難民のための「1泊」に使われることもあるのだ。

 こうした寄付は、使途が決まっているものの「宛先」を指定していない寄付とも言うことができる。

 逆に、特定の個人を「宛先」に指定した寄付集めとは、どういうものだろうか。


筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困パンデミック』(明石書店)、『閉ざされた扉をこじ開ける』(朝日新書)、『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

稲葉剛の記事

もっと見る