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[29]分断の時代におけるNPOの役割とは?

「共感獲得競争」の弊害を考える

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

「スピーチが奨学金受給の条件」に違和感

 私が思い出すのは、児童養護施設から社会に出る若者たちを支援するNPO法人ブリッジフォースマイルが、2017年まで実施していた奨学金支援プログラム「カナエール」である。

 「カナエール」は、児童養護施設退所者が自らの夢を語ることで奨学金を獲得するスピーチコンテストで、2011年から7年にわたって実施された。スピーチコンテストの模様はテレビ番組でも取り上げられる等、大きな反響を呼び、計96人の若者に1億4300万円の奨学金を提供できたという。

 だが、児童養護施設退所者に対して、奨学金獲得と引き換えに人々を感動させるスピーチをすることを求めるという手法に、私は違和感を抱いていた。児童福祉の関係者からも批判があったと聞いている。

 今年5月10日になって、ブリッジフォースマイルの林恵子理事長は、自身のブログに 「カナエールの反省 」という文章を掲載した。

 その中で、林さんは反省点として「スピーチを奨学金受給の条件としたこと」、「感動するレベルを求めたこと」、「自己開示のリスクへの配慮が至らなかったこと」の3点を挙げ、「実際、進学したいけど、お金がないから、嫌だけどスピーチするしかない。という子もいました。ただ進学したいだけなのに嫌なスピーチを強制してしまい、申し訳なかったと思います。」と謝罪した。

 また、スピーチの内容についても、「生い立ちを語ることは強制しない、本人の意思に委ねることにしていましたが、振り返ってみると毎年半分くらいの人が生い立ちに関わる内容をスピーチに盛り込んでいました。」、「スピーチの質を上げる目的からスピーチコンテストとして賞をもうけたことも、自己開示を促すことにつながりました(ただし奨学金は一律)。申し訳なかったと思っています。」と書いている。

 プログラムの終了から時間が経っているとは言え、問題点に率直に向き合っていらっしゃる点には敬意を表したい。

「宛先」を個人に指定する寄付集めの問題点

 私には、「カナエールの反省」は「宛先」を個人に指定する寄付集めの問題点を明らかにしたように思える。

 近年、クラウドファンディングのサイトでは、団体の事業ではなく、個人の夢を実現するための寄付集めが多く見られるようになってきた。それ自体は悪いことではないのだが、困難を抱える人たちへの支援にこの仕組みを援用するのは、「カナエール」同様、本人の生い立ち等の自己開示を促して、多くの人の共感を獲得することを求めることにつながりかねないと考える。

 企画者の意図がどうであろうと、

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筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困パンデミック』(明石書店)、『閉ざされた扉をこじ開ける』(朝日新書)、『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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