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患者と医療者の権利 誰がどう守りますか?

仙台地裁が違憲無効と初判断した旧優生保護法の規定をもとに考えた

前田哲兵 弁護士

 旧優生保護法を巡る訴訟で、28日、仙台地方裁判所が原告の請求を棄却する判決を言い渡した。

 判決は、「子を産み育てるかどうかを意思決定する権利」(リプロダクティブ権)は、幸福追求権を保障する憲法13条の法意に照らし、人格権の一内容として尊重されるべきであるとした。

 その上で、旧優生保護法の規定は、子を産み育てる意思を有していた者にとって、その幸福の可能性を一方的に奪い去り、リプロダクティブ権を侵害するものであるため違憲無効であるとした。

 しかし、不妊をされたことに基づく損害賠償請求については、すでに手術から20年の除斥期間が経過しているため、棄却した。なお、「除斥期間」とは、一言でいえば「時効の強力バージョン」である。→①

 さらに、国がこれまで被害救済立法をしてこなかったことに基づく損害賠償請求については、原告にとってそのような立法が必要不可欠であったことは認めつつも、リプロダクティブ権をめぐる法的議論の蓄積が少ないことなどから、国会にとって、そのような立法をすべきことが明白であったということは困難として、同じく棄却した。→②

判決受け根本厚労相拡大強制不妊訴訟の判決を受け、記者の質問に答える根本匠厚労相=2019年5月28日午後3時50分、国会内、岩下毅撮影

「旧優生保護法は違憲。しかし、損害賠償請求は認めない」に思うところあり

 今回の判決については、いくつか思うところがある。

 ①については、これほどまでに非人道的な施策・手術について、「除斥期間」つまりは「時が経過したから」という一事のみをもって請求を棄却するというのは疑問である。正義・公平の理念に反する場合には除斥期間は適用しないという判例法理があるなど、除斥期間といえども適用が制限される場面はあり得る。本件は、まさにそのような場面ではないだろうか。

 ②については、要するに判決は「リプロダクティブ権は最近議論されるようになってきた新しい人権であるから、国会がその救済の必要性に気づくことができなくても仕方がない」と言っている。しかし、本当にそうであろうか。確かに、リプロダクティブ権という「名称」は新しいのかもしれない。しかし、すべての人が「子を産み育てるかどうかを意思決定する権利」を有していることなど、学界や裁判所の議論を待つまでもなく、誰が考えても明らかなことではないだろうか。

 以上のとおり、今回の判決には首肯し難い点がある。

 とはいえ、旧優生保護法に対して裁判所が初の違憲判断を下した意義は大きい。

 すでに、原告は判決を不服として仙台高等裁判所に控訴する方針であると報じられている。また、旧優生保護法を巡っては、仙台以外に、札幌、東京、静岡、大阪、兵庫、熊本など全国で裁判が提起されている。これからも裁判は続いていく。

 本稿では、裁判所においても「違憲無効」とされた優生保護法とは一体どのような法律であったのか、そして、国が同法に基づいてどのような非人道的施策を行っていたのかを整理したい。

コメント拡大記者会見で判決を受けての気持ちを読み上げる原告の70女性=2019年5月28日午後5時22分、仙台市青葉区、小玉重隆撮影

「優秀な人」と「不良な人」と区別する社会だった

 旧優生保護法は、戦後の1948年に制定された。その第1条には、法律の目的として「優生上の見地から不良なる子孫の出生を防止する」と記載されていた。

 ここにある「優生上の見地」とは、「優生思想」のことだ。優生思想とは、人を「優秀な人」と「不良な人」に分けて、不良な人を社会から排除しようとする考え方のことをいう。旧優生保護法とは、優生思想に基づいて作られた法律だったのだ。

 そして、国は、この法律に基づいて、障害者に対して強制的に不妊手術を行っていた。男女ともに生殖機能が失われるこの不妊手術を「優生手術」と言ってきた。人権の観点から考えるとき、優生手術が、被害者の個人の尊厳や、リプロダクティブ権を侵害していることは明らかである。

仙台地裁判決前拡大仙台地裁に入る原告団=2019年5月28日午後2時32分、仙台市青葉区、小玉重隆撮影

法務省の説明と国の狙い

 この優生思想による障害者差別がどれほどひどいものであったかは、当時の法務省の説明を読めばよく分かる。少し長いが引用する。

「劣悪な子孫の出生だけしか考えられないような人々の間においては、折角の優生手術が少しも顧みられず、いわゆる悪魔の饗宴が繰り広げられ、無節制無反省な繁殖が続けられて行くとすれば、そこに招来されるものは民族の逆淘汰という事実であるということは、火をみるよりも明らかなことに属する」(法務省刑事局参事官高橋勝好『詳解優生保護法』中外医学社、1952年、8~9頁)

「劣悪な素質を有する子孫、いい換えれば今後の社会にとって、重大な負担しかもたらさらないことが明確である子孫が生まれてくるのを、拱手して傍観することは、公の秩序善良の風俗を保持する上からいっても好ましくないし、それは公共の福祉に対する重大な侵害行為でもある」(法務省刑事局参事官高橋勝好『詳解優生保護法』中外医学社、1952年、36~37頁)

 「劣悪な子孫の出生だけしか考えられないような人々」「悪魔の饗宴」「無節制無反省な繁殖」など、意味不明ともいえる差別表現が羅列されている。

 掲載することもはばかられるような内容であるが、当時の国は、一部の障害者を「今後の社会にとって、重大な負担しかもたらさらない」として差別し、その生殖機能を強制的に奪うことによって、その子孫が生まれることを防ぎ、将来的にその存在を社会から排除しようと考えていたのだ。それは、戦後の爆発的な人口増加と、それに伴う食糧不足を防ぐことを目的にしていたともいわれている。

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筆者

前田哲兵

前田哲兵(まえだ・てっぺい) 弁護士

1982年、兵庫県生まれ。坂井・鵜之沢・前田法律事務所所属。相続や交通事故といった一般民事や刑事事件、企業法務の他、政治資金監査や選挙違反事件などの政治案件や医療事故も扱う。医療政策実践コミュニティー(H-PAC)医療基本法制定チームの筆頭、日本プロ野球選手会公認選手代理人、小中学校のスクールローヤーとしても活動中。著書に『業種別ビジネス契約書作成マニュアル』『交通事故事件21のメソッド』等

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