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患者と医療者の権利 誰がどう守りますか?

仙台地裁が違憲無効と初判断した旧優生保護法の規定をもとに考えた

前田哲兵 弁護士

「場合によってはダマしても良い」

 国は、この優生思想を広く国民に普及することを最優先課題としていた。例えば、46年の帝国議会貴族院において、国務大臣は次のように答弁している。

「優生問題に對する思想の普及、是はもう問題なく出來るだけやらなくちやならぬことでありまして、(中略)今後斯う云ふ點に付きまして、十分積極的方法を採らなくてはならぬと云ふことを確信致して居ります」(帝国議会貴族院・官報号外『第91回帝国議会貴族院議事速記録第3号』1946年11月30日)

 さらに、国は、53年、優生手術の実施方法について、手術の実施主体である都道府県知事宛てに、次のような通達を出している。

「審査を要件とする優生手術は、本人の意思に反してもこれを行うことができる」「真にやむを得ない限度において身体の拘束、麻酔薬施行又は欺罔等の手段を用いることも許される」(厚生省事務次官『通知 優生保護法の施行について(抄) 厚生省発衛第150号』1953年)

 ここで「欺罔等の手段」とは、「ダマすこと」である。つまり、国は、「手術するために必要であれば、本人の体を縛っても良いし、麻酔で眠らせても良いし、ダマしても良い」とお達しを出していたのである。その結果、手術前に十分な説明もなく、子どもが産めなくなるとは知らずに手術を受けさせられた人も多くいたという。国が「ダマすこと」を許容している点など、当時の人権感覚の希薄さに絶句する他ない。

弁護団会見拡大記者会見で判決に対する思いを語る60代の原告女性の義姉(手前右)と70代の原告女性(手前右から2人目)=2019年5月28日午後4時32分、仙台市青葉区、小玉重隆撮影

国から発破をかけられて

 上記のような国からの通知を受けて、都道府県は、手術件数の多さを競い合うようになっていった。例えば、京都府では、55年、病院や障害児の施設に宛てて、優生手術の実施に協力してほしいという手紙を送っていた。また、北海道では、56年、優生手術が1000件を突破したことを受けて記念誌を発行して他の都道府県にも配り、自画自賛していた。

 しかし、国は、都道府県から上がってくる手術件数の報告に満足しなかった。そればかりか、手術件数が伸び悩んでいることに焦りを感じ、都道府県に対して手術件数を増やすようさらに発破をかけるようになった。

 例えば、57年、厚生省公衆衛生局精神衛生課長は、都道府県の衛生主管部宛てに、次のような文書を送付した。

「優生手術の実施件数は逐年増加の途を辿っているとはいえ予算上の件数を下回っている実情であります」

「各府県別に実施件数を比較してみますと別紙資料のとおり極めて不均衡でありまして、これは手術対象者が存在しないということではなく、関係者に対する啓蒙活動と貴職のご努力により相当程度成績を向上せしめ得られるものと存ずる次第であります」

「本年度における優生手術の実施につきまして特段のご配慮を賜わりその実をあげられるよう御願い申し上げる次第であります」(厚生省公衆衛生局精神衛生課長大橋六郎『厚生省公衆衛生局精神衛生課長書簡』57年4月27日)

 つまり、厚生省にとって優生手術の実施件数を増やすことは各都道府県の「成績」に当たり、「成績」が不良な都道府県は「関係者に対する啓蒙活動」と「努力」によって「成績」を向上させよと積極的に鼓舞していたのである。

会見する原告の義姉拡大記者会見で質問に答える60代の原告女性の義姉(左)=2019年5月28日午後4時35分、仙台市青葉区、小玉重隆撮影

 以上から、国が都道府県に対して手術件数を増加させるように積極的に要請し、それを受けて、都道府県が競い合うようにして優生手術を実施していったという構図が見えてくる。

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筆者

前田哲兵

前田哲兵(まえだ・てっぺい) 弁護士

1982年、兵庫県生まれ。坂井・鵜之沢・前田法律事務所所属。相続や交通事故といった一般民事や刑事事件、企業法務の他、政治資金監査や選挙違反事件などの政治案件や医療事故も扱う。医療政策実践コミュニティー(H-PAC)医療基本法制定チームの筆頭、日本プロ野球選手会公認選手代理人、小中学校のスクールローヤーとしても活動中。著書に『業種別ビジネス契約書作成マニュアル』『交通事故事件21のメソッド』等

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