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患者と医療者の権利 誰がどう守りますか?

仙台地裁が違憲無効と初判断した旧優生保護法の規定をもとに考えた

前田哲兵 弁護士

学校教育の現場でも

 さらに、国は、優生思想を学校教育の場でも普及させた。

 例えば、当時の高校の保健体育の授業では、優生思想について指導することが学習指導要領に定められていた(『高等学校学習指導要領』大蔵省印刷局、1960年)。

 また、高校生向けのある教科書には、次のような問題が掲載されていた。

次の各文について正しいものには〇、正しくないものには×を( )の中に記入せよ。
( )1 …(略)…
( )2 劣悪な遺伝を除去し、健全な社会を築くために優生保護法がある。
( )3 …(略)…
( )4 …(略)…

解答 1-(略) 2-〇 3-(略) 4-(略)
(国立公衆衛生院田多井吉之介ら著『新編高等学校保健体育 教授資料・評価編』株式会社好学社、1969年)

 別の教科書には、遺伝学的にみて健全な者同士の結婚を勧め、結婚をする際は自分や相手の家計に遺伝病患者がいないか調べるべきであると記載されていた(今村嘉雄ら著『高等保健体育』株式会社大修館書店、1970年)。なお、そこで「遺伝病」とされている疾患は、無知と偏見によって遺伝性とされているだけであり、医学的根拠は全くない。

 このように、国は、学校教育を通じて、全国民に対して優生思想を流布・浸透させ、定着させてきたのである。

旧優生保護法1拡大旧優生保護法に基づく強制不妊手術の被害者に対して、一時金を支給するなどとする救済法が全会一致で可決、成立した参院本会議=2019年4月24日午前10時51分、国会内、仙波理撮影

続々と生み出された被害者

 以上のような国による積極的な働きかけの結果、記録が残っているだけでも、48年から96年までの間に、本人の同意を得ない優生手術(強制不妊手術)が16518件も行われた。

 その他に、本人の同意がある手術とされているハンセン病患者に対する不妊手術は1551件とされているが、これも半ば強制的に同意させられたものであると考えられる。ハンセン病療養所内では、婚姻をするために半ば不妊手術が強制されていたという実態があるからだ。その他にも半ば強制的に同意を得させられた人は少なくないだろう。

 要するに、上記の数字は一例であり、統計に表れていない暗数が相当あると思われる。

 以上のように、国の施策は非常に積極的なものであった。そうであるのに、国は、96年に旧優生保護法を母体保護法に改正しただけで、被害者らに謝罪することもなく、被害を放置し続けた。

 暴力的に人の生殖機能を奪っただけでなく、その後、その被害を放置し続けた国の責任は非常に重いと言わざるを得ない。

 本件は、ハンセン病患者の強制隔離という忌まわしい歴史に並ぶ、国家によるみぞうの人権侵害事案といって間違いない。

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筆者

前田哲兵

前田哲兵(まえだ・てっぺい) 弁護士

1982年、兵庫県生まれ。坂井・鵜之沢・前田法律事務所所属。相続や交通事故といった一般民事や刑事事件、企業法務の他、政治資金監査や選挙違反事件などの政治案件や医療事故も扱う。医療政策実践コミュニティー(H-PAC)医療基本法制定チームの筆頭、日本プロ野球選手会公認選手代理人、小中学校のスクールローヤーとしても活動中。著書に『業種別ビジネス契約書作成マニュアル』『交通事故事件21のメソッド』等

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