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望月衣塑子の質問(2)菅官房長官とドタキャン

菅官房長官が望月記者のドタキャン質問に異様なこだわりを見せた背景

臺宏士 フリーランス・ライター

東京新聞「記者の言いっ放しではない」

拡大記者会見する菅義偉官房長官
 東京新聞は2月20日朝刊でこの問題を取り上げた特集記事「検証と見解/官邸側の本紙記者質問制限と申し入れ」を掲載した。

 それによると、官邸は「ドタキャン」質問をめぐるだけでも、「政府側が『ドタキャン』した事実は全くない」(2018年1月17日)、「『ドタキャン』という表現は何を意味するのか」(19日)、「ケイ氏の理解を得た上で新たな日程を調整した。『ドタキャンした』という根拠を示せ」(25日)、「『ドタキャン』と表現されることは経緯を正確に反映していない」(30日)――と4回も東京新聞に対して回答を迫り、東京新聞側もこれに対して3回、返答したという。

 特集面に掲載された「本紙記者の質問に対する9件の官邸側申し入れと本紙回答」とのタイトルの表から、この「ドタキャン質問」の部分を抜粋する。(わかりやすくするため一部に手を加えた)

1月16日 会見(望月記者) 「一昨年の11月の時に国連人権委(ママ)のデービッド・ケイさんが菅さんや高市総務相と面会をしたいという時も、政府側がドタキャンした」
1月17日 官邸 政府側が「ドタキャン」した事実は全くない
1月18日 本紙(臼田信行編集局長) ケイ氏の訪問調査が2015年12月に決まった後、日本側都合でキャンセルされている。菅官房長官と面会予定があったと受け取れる質問箇所は事実誤認だった
1月19日 官邸 「ドタキャン」という表現は何を意味するのか
1月22日 本紙 「政府がドタキャンした」と述べたのは、一昨年の訪問調査ではなく15年のことだった。当時、国際NGOも「土壇場でキャンセルした」と批判した
1月24日 官邸 ケイ氏の理解を得た上で新たな日程を調整した。「ドタキャンした」という根拠を示せ
1月26日 本紙 15年12月1日からの訪問調査日程が11月中旬にキャンセルされたことを「ドタキャン」と表現するのは許容範囲
1月30日 官邸 「ドタキャン」と表現されることは経緯を正確に反映していない

 東京は「毎日新聞、共同通信も『日本政府の要請で突然延期になった』と報じていた」と他の新聞・通信社の報道にも触れた。

 調べてみると、毎日は12月4日朝刊社説「国連調査先送り 政府の対応は不可解だ」の中で「日本における表現の自由の現状について今月中に予定されていた国連の調査が、日本政府の要請で突然、延期された」と言及していた。共同が配信し、東京15年11月20日朝刊に掲載された「表現の自由 国連調査 政府要請で急きょ延期」の記事では、「日本での現地調査が、日本政府の突然の要請で延期されていたことがわかった」と表現されている。

 東京の特集記事では触れられていないが、朝日新聞も15年12月12日朝刊社説「秘密法1年 疑惑はぬぐいきれない」で「来日調査が政府の直前の要請で延期されたうえ、事実上、来年秋以降への先送りを政府が提示していたことも判明した」と指摘していた。

 東京新聞の臼井信行編集局長は「官房長官の面会予定があったと受け取れる箇所など、一部で事実誤認があった」と誤りを認めたが、「『政府側がドタキャンした』という表現は論評の範囲内だと考える」と回答したという。

 「ドタキャン」質問には相当、腹に据えかねたのだろう。

 菅官房長官は2019年2月12日の衆院予算委員会で奥野総一郎氏(国民)の質問に対して次のように怒りをぶちまけている。(先に記したように望月記者は菅官房長官にドタキャンの理由を尋ねていないうえ、質問内容の要約にも菅官房長官にはかなりの事実誤認がある)

 「事実に基づかない質問が行われ、これに起因するやりとりが行われる場合は、内外の幅広い視聴者に誤った事実認識を拡散されるおそれがあると思っています。私が国連人権委員会(人権理事会・筆者注)の特別報告者からの面会依頼をドタキャンしたと。なぜドタキャンしたと言われたんです。それは私、記憶がなかったものですから、調べたら、面会依頼の事実がなかったんです」

 3月1日の衆院予算委員会(小川淳也氏・立憲民主)、3月8日の参院予算委員会(杉尾秀哉氏・立憲民主)、3月20日の参院内閣委員会(田村智子氏)、3月22日の参院予算委員(同)と計5回も同じように答弁している。

 これに対して、東京新聞は「検証と見解」のなかで「会見では菅氏も『ドタキャンなんかしていません』と即座に回答しており、記者の言いっ放しにはなっていない」と反論した。

 菅官房長官は、日本政府を代表して方針や見解を述べる立ち場の人物である。自分自身に対しては面会の依頼がなかったからといって、「ドタキャン」に当たらないと何度も国会で言い通すのは、いかがなものだろうか。ここまで見てきたように、日本政府はケイ氏と約束した日程を日本側の都合で中止を決め、しかもそれはケイ氏の意向を押し切るような経緯がありながら、「理解を得た」と豪語するのである。そうした日本政府の態度は国際社会にどう映るだろうか。

 それにしても菅官房長官は、フィンICAN事務局長との面会に関する質問で、望月記者が長官を「ナンバー2」と表現したことも即座に否定した。こっちは「事実誤認だ」と抗議しなくてもよいのだろうか。「ナンバー2は副総理の麻生氏だ。訂正しろ!」とでも。

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筆者

臺宏士

臺宏士(だい・ひろし) フリーランス・ライター

毎日新聞記者をへて現在、メディア総合研究所の研究誌『放送レポート』編集委員。著書に『アベノメディアに抗う』『検証アベノメディア 安倍政権のマスコミ支配』『危ない住基ネット』『個人情報保護法の狙い』。共著に『エロスと「わいせつ」のあいだ 表現と規制の戦後攻防史』『フェイクと憎悪 歪むメディアと民主主義』など。 

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