
全米大学選手権への進出を決めたサニブラウン(左)=米・ジャクソンビル
20歳2カ月、世界歴代6番目の若さでの9秒台にも冷静 「いつか(日本記録は)切れるんじゃないかなというくらい・・・」
2017年夏にフロリダ大に留学して以来、取材者たちが密かに恐れていた事態が現実となった。もちろんうれしい現実の話なのだが。
サニブラウン・ハキ―ム(20=フロリダ大)のレースは米国内で行われ、大学生は全米各地で小規模の地方予選会を走る。全国規模の試合なら事前情報を含めて知る機会は多いが、小さな予選会で本当に「サラリと」9秒台で走ってしまうのではないだろうか。予想もしない日本新記録が、記者不在の場所で誕生した場合、どうやって詳細情報を集め、「事件」ともいえる歴史的記録を記事にすればいいのか・・・。
そんな胸騒ぎの予感が5月11日、米・アーカンソー州で行われた米大学南東部地区予選でウォーミングアップのように的中した。
追い風1.8㍍の条件下で日本にとっては桐生祥秀(日本生命)の日本記録9秒98に続いて史上2人目の9秒台、9秒99をマークして自己記録を一気に0秒06も更新して優勝。フロリダ大が映像を配信しており、9秒99の臨場感は無事確認できたようだ。
15年世界選手権(北京)男子200㍍16歳5カ月で同種目世界最年少出場、17年ロンドン世界陸上も同種目18歳5カ月の世界最年少ファイナリストとなった若きエースに、もうひとつの「年少記録」も加わった。20歳2カ月での9秒台マークは、歴代6番目の若さ。彼が目標とするウサイン・ボルトさえ、初めて10秒を切ったのは21歳8カ月だ。
しかし若さ以上に印象的なのは、20歳の若者の冷静過ぎるほどのコメントである。レース直後の速報値は10秒00で、正式タイム9秒99の掲示に周囲は祝福に駆け寄ったが本人は照れくさそうに笑うだけだった。
「正直、そんなに速く走っている感じはなかった。いつも通りの走りをして、フィニッシュした感じ。(日本記録は)そのうち切れるんじゃないかというくらい」と、日本人2人目の9秒台にも周囲が肩すかしに合うほど、他人事のような表現で平然と対応する。
昨年は右足付け根を痛めて、練習を十分にできない時期が8カ月間も続いた。今年1月にトレーニングには復帰したが、正月、久しぶりに帰国しようと予定したプランも返上し、冬季練習を地道に続けたという。自分を客観視する冷静なコメントには、そうした下積みから得たメンタル面での成長がうかがえる。
3月、全米室内選手権では60㍍に出場し6秒54と日本記録に並ぶ今季世界7位の好記録で復帰を果たし、スタートダッシュ、スピード感覚を備えて9秒台のレールをゆっくり走り始めていたのかもしれない。