西山良太郎(にしやま・りょうたろう) 朝日新聞論説委員
1984年朝日新聞社入社。西部(福岡)、大阪、東京の各本社でスポーツを担当。大相撲やプロ野球、ラグビーなどのほか、夏冬の五輪を取材してきた。現在はスポーツの社説を中心に執筆。高校では野球部、大学時代はラグビー部員。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
ワールドワイドな夢を見よう
トップリーグの創設以来、外国からの有力選手が増え、確かに競技はレベルアップしてきた。だが、サッカーが「100年構想」を掲げ、全国にクラブを増やし、若手選手の育成や子供たちへの普及やグラウンドの芝生化などの環境整備も併せて進めてきたことに比べると、ラグビー界の戦略的な動きは乏しい。W杯を機に、ラグビーの魅力を人々に広く伝え、文化を深く根付かせるためには、さらに努力が必要だ。
興味深い動きもある。
東京駅の西側、オフィス街の丸の内ビルの角に、巨大なラグビーボールのモニュメントがある。その向かいの仲通り沿いの木陰には「ベンチアート」があり、ラグビー好きで知られる芸人「中川家」の兄弟の像がユニフォーム姿で座っている。人々はそこで昼食の待ち合わせをしたり、ベンチに座って写真を撮り合ったりしている。ラグビーが街に溶け込む空間ができているのだ。
これは、不動産会社の三菱地所グループが企画する「丸の内15丁目プロジェクト」の一環だ。
3丁目までしかない丸の内に、チームの人数にちなんだ架空の自治体「15丁目」を作り、ラグビーを応援する人たちが集う事業。このプロジェクトに賛同し、「15丁目」の「住民」に登録をした人は半年で4千人ほどにのぼる。
ラグビーというスポーツは、パワーやスピードがあれば有利だが、本質はボールをゴールラインまで運ぶ陣取り合戦だ。戦略や戦術を集団で遂行する「頭脳戦」でもある。「15丁目」はその部分にも注目し、ラグビーを通してビジネスやマネジメントを考えるセミナーを開いたり、アートや食文化と結びつけたりと、さまざまなイベントを展開。ラグビーをよく知らない人も積極的に仲間にしてゆこうとしている。
三菱地所はW杯日本大会の公式スポンサー。「15丁目」には当然、大会や会社のPRという役割がある。だが、そこにとどまらず、街とラグビーを結びつける発想は新鮮だ。三菱地所ラグビーワールドカッププロジェクト推進室の出雲隆佑さんは、この事業を企画するにあたり、「まねしたり、参考にしたりした先例はない」という。今回のW杯を機にみえてきた新しい動きなのだ。
約120年を数える日本ラグビーの歴史は、決して短くはないけれど、広がりも厚みも、まだまだだ。W杯という祭典をきっかけに、楕円球を中心にイベントや人がつながって、有機的な連係が生まれ始めた。この芽をどうやって豊かなラグビー文化に育てるか。みんなで考えていきたいと思う。
【ラグビーワールドカップ2019】
2019年9月20日~11月2日 48試合
開催都市
札幌市、岩手県釜石市、埼玉県熊谷市、東京都、横浜市、静岡県、
愛知県豊田市、大阪府東大阪市、神戸市、福岡市、熊本市、大分県
大会ビジョンは「絆 協創 そして前へ」