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「高等教育無償化」で文科省が大学を支配する

大学は国のいいなりでは社会に貢献できない

小林哲夫 教育ジャーナリスト

拡大文科省入り口

「無償化」要件の罠

 いま、国は大学をデザインしている。

 大学を好き勝手に操っている、といってもいい。

 国にとっていちばん都合の良い大学とは何かを考えながら、高等教育政策を打ち出しているとしか思えないからだ。悲しいかな、大学はそれに粛々と従っている。無視したり、反旗を翻したりするとお金とかお墨付きとかがもらえない。ヘタしたら大学運営の根幹に関わってしまうからだ。

 今年5月、「大学等における修学の支援に関する法律」が成立した。所得が低い世帯の学生への入学金・授業料が減免されることになり、「高等教育無償化」政策と喧伝されている。たが、「無償化」の恩恵を受けるためには、国が指定する大学に通わなければならない。どういうことか。

 「無償化」大学にはこんな要件がつけられている。「実務経験のある教員による授業科目が標準単位数(4年制大学の場合、124単位)の1割以上、配置されていること」「法人の「理事」に産業界等の外部人材を複数任命していること」――。

 ここで示された「実務経験のある教員」とは大学業界で実務家教員と呼ばれ、企業の財務管理、資産運用、海外事業展開の担当者、官庁や自治体での政策遂行責任者、あるいは、弁護士、公認会計士、税理士などを指している。いま、大学には社会で役に立つ人材を育成するためには専門知をきわめさせるより、職業訓練を優先させたほうがいいという考え方が浸透しつつある。就職実績の向上が、志願者の増加につながると信じられており、そのためには。実務家に手とり足とり指導してもらいましょうというわけだ。

 文科省はこうした大学の弱みをわかった上で、実務家教員を推奨する。そこで割を喰うのが「世間知らずの学者」だ。彼らは「社会の役に立たない学問を教えている」と言われ、隅に追いやられてしまう。定年でリタイアしたあと、空いたポストには実務家教員がおさまっているというケースがよく見られるようになった。一方で、「即戦力を育ててほしい」という企業からのプレッシャーにも押されて、実務家さがしに奔走する大学も増えた。大学教員のあいだから、当然、学問の危機を憂う声が出ている。

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筆者

小林哲夫

小林哲夫(こばやし・てつお) 教育ジャーナリスト

1960年生まれ。教育ジャーナリスト。朝日新聞出版「大学ランキング」編集者(1994年~)。おもな著書『神童は大人になってどうあったのか』(太田出版)、『高校紛争1969-1970』(中央公論新社)、『東大合格高校盛衰史』(光文社)、『飛び入学』(日本経済新聞社)など。