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「高等教育無償化」で文科省が大学を支配する

大学は国のいいなりでは社会に貢献できない

小林哲夫 教育ジャーナリスト

「無償化」の対象とならないところは受験生から選ばれない

 こうした実務家教員、そして、学外理事がいない大学に通っても、学費はタダにならないわけだ。なぜ、国はこんな枠組みをつくったのだろうか。文部科学省はこう説明している。「大学等での勉学が職業に結びつくことにより格差の固定化を防ぎ、支援を受けた子どもたちが大学等でしっかりと学んだ上で、社会で自立し、活躍できるようになるという、今回の支援措置の目的を踏まえ、対象を学問追究と実践的教育のバランスが取れている大学等とするため、大学等に一定の要件を求める」(文科省「高等教育の無償化に係る参考資料」2018年11月21日)。

 つまり、国は大学に対して「学問追究と実践的教育のバランスが取れている」ことを求めている。「学問探究」など言われなくてもわかっているので、「職業に結びつく」「実践的教育」に力を入れなさい、と言いたいわけだ。

 大学にすれば、学生募集のためには、「無償化」を適用される要件を整えなければならない。どの大学も教育内容、カリキュラムに「職業に結びつく」実務系科目(たとえば簿記、会計とか)を採り入れ、実務家(企業の経理担当者)を呼んで教壇に立たせることになるだろう。いま、文系、教育系、芸術系、体育系、芸術系がメインの大学は、「実践的教育」が得意ではないが、国の方針に従って教育内容を変えるしかない。「無償化」の対象とならないところは受験生から選ばれないからだ。

拡大冨山和彦・経営共創基盤CEO
 思い起こされるのは、2014年、経営共創基盤代表取締役CEOの冨山和彦氏が、文科省の有識者会議で打ち出した、G(グローバル)型大学、L(ローカル)型大学の構想だ。トップ校はG型として世界をめざしてもらう。残りの多くはL型で職業訓練校にすべきという趣旨で、経済・経営系学部はマイケル・ポーターの戦略論ではなく簿記・会計、会計ソフトの使い方を教える。法学部は憲法ではなく道路交通法を教え、大型第二種免許を取得させる、などという意見だった。国は大学の理想像を職業訓練校に求めているのだろうか。こうなると、「無償化」をタテに、すべての大学に職業訓練の役割、L型構想的な教育を押しつけているとしか思えない。

 もう1つ、「無償化」には高いハードルがある。対象となる学生は「高等学校を卒業し、または高等学校卒業程度認定試験(いわゆる高認)に合格してから2年の間までに大学等に入学を認められ進学した者」となっており、2年浪人以上はタダにはならない。また、長年、教育機関から離れていた社会人に門戸を閉ざしているわけだ。定年になった人、育児の手が離れた主婦が、大学で学び直したいといっても、国は冷たくあしらったわけだ。

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筆者

小林哲夫

小林哲夫(こばやし・てつお) 教育ジャーナリスト

1960年生まれ。教育ジャーナリスト。朝日新聞出版「大学ランキング」編集者(1994年~)。おもな著書『神童は大人になってどうあったのか』(太田出版)、『高校紛争1969-1970』(中央公論新社)、『東大合格高校盛衰史』(光文社)、『飛び入学』(日本経済新聞社)など。