教員不足6つの処方箋
いま必要なのは「教育改革」ではなく「教育予算改革」だ。それこそ政治の責任だ
佐久間亜紀 慶應義塾大学教授

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1 教員不足の実態把握
いま起きている教員不足は、非正規雇用教員の不足だ。
その不足の実態は、教員を雇用している都道府県・政令指定都市ごとに、大きく異なっている。同じ県内でも格差がある場合も大きい。ところが、教員不足の数値を公表していない自治体も少なくない。
教員不足への対策を進めるには、まずは、現状把握が急務だ。
学校の窮状をご理解くださった読者諸氏には、まずは、自分が住む地域の学校が、いったいどんな実情になっているか知りたいと、声をあげてほしい。地方紙やNHK地方局の報道番組などに、問い合わせや要望のメールを送れば、記者さんたちが動きやすくなるはずだ。
各教育委員会も、堂々と数値を公表し、ここまで現場が大変な事態になっていることを、きちんと議会や市民に訴えるべきだ。批判を恐れる必要はない。教員不足は、前回までの記事で書いてきたように、マクロの規模で起きた構造的な問題の帰結なのだから。
各都道府県議会の議員諸氏には、各自治体の教員不足の実態を認識した上で、対策にいくら支出できるのか、財政の優先順位を建設的に議論していただきたいと思う。
2 非正規教員の待遇改善
公表の結果、非正規への依存率が高いことがわかったら、前の記事『それでも先生になりたい アルバイト教師の実態』で触れたアヤネ先生のように、非正規の先生の待遇が悪すぎないかと、声をあげてほしい。
いま問題になっている非正規教員の不足を解消するためには、非正規を経てでも教職につきたいと思う人を、増やさなければならない。その対策が必須となる。
しかし、特に臨時的任用教員(臨採の先生たち)の待遇があまりに厳しすぎて、正規で採用する前に力尽きて病気になったり、教員への夢を断念して別の仕事についたりしてしまっている。文科省が2019年10月に11の自治体に行ったアンケートでも、過半数にあたる6つの自治体が、臨時的任用教員の不足要因として「採用候補者が教員以外の職に就職した」と回答したという。(文部科学省『いわゆる「教員不足」について』参照)
つまり現状では、教員を育て増やすどころか、使い捨てにしている実態がある。せっかく養成した高度専門職の人々を使い捨てにするのは非効率だし、大きな社会的損失だ。
臨時的任用教員の待遇を大幅に改善して、正規雇用を希望する人が採用されるまでサポートすると共に、学校現場に彼らを育てる余力をとりもどす必要がある。
そもそも、国から各自治体へは、1学級40人という条件を前提に、必要とされる先生の数が計算されて、その給与の三分の一が支給されている。だから、せめて国が定める教員定数分は、非正規教員としてではなく、きちんと正規教員として確保してほしい。
ただし、これを読んだ各都道府県・政令指定都市の採用計画担当者は、すかさず私に怒濤のツッコミを入れているはずである。「そもそも予算がつかないからこうなっているんだ!」と。
だから、各自治体が非正規教員の待遇を改善したり、正規教員として雇用したりするための予算を計上するよう、住民が声をあげて、その声を議会に届けていくしかない。
国に対しても、先生の数を確保するための責任を果たすよう、あちこちから声をあげてほしい。子ども達がきちんと教育を受けられるようにするのは、国の責任、私達みんなの責任だ。
3 対症療法
国レベルでは、文科省は2018年10月に、3年間だけ有効の「臨時免許状」を、各都道府県教育委員会が出すための要件を緩和する対策をとった。期限切れになってしまった教員免許をもっている人などが、先生がみつからず授業が実施できなくなった教室で急きょ教えられるようにするための措置となる。
教員免許の乱発は望ましくないが、かといって、もうすでに、実際に誰も教える人がいなくて子どもが授業を受けられない教室がこれだけ増えているのだから、やむを得ない判断だと言わざるをえない。
ただし、あくまでもこれは、急場を凌ぐための短期的な対症療法に過ぎない。以下のような、中長期的で、抜本的な対策が求められる。