メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

入管自動化で問われる、日本人の“本気度”

倉沢鉄也 日鉄総研研究主幹

 訪日外国人は、想定外に激増してきた。2018年累計で約3,119万人、前年比伸び率8.7%。2013年では1,036万人なので3.0倍、2008年では835万人なので3.7倍、となった。中国と東南アジア諸国の伸びが著しく、総じてアジアの経済成長と対アジア通貨の相対的円安が主な原因だ。観光立国としての官民の取り組みがこれに拍車をかけた形になった。日本人出国者数はこの20年大筋横ばいの1,800万人前後で、2015年に抜き去られた(以上法務省及び日本政府観光局の公表数値)。

 その結果、入管、税関、検疫の行政事務作業は、厳しい合理化の中で処理量の拡大を求められてきた。とくに待機列(渋滞)が恒常化かつ長大化している出入国管理「Passport Control」について見ると、例えば2018年度には審査官を300人弱緊急増員してはいるが、政府が2020年に想定している訪日外国人受け入れ4,000万人の処理能力に対して十分ではないとのことだ。

 訪日外国人でもとくに観光目的での「一見さん」には最も厳格な審査を必要とし、これは審査官が有人ブースで対応せざるを得ず、そのスピードアップは大きなリスクを伴う。大企業の業務での複数回の出入国実績があったり、国際会議への事前申し込みで主催者と本人身元が把握できたり、であれば事前審査などある程度の合理化策も可能だが、これらの規模は小さく、効果の限界がある。セキュリティ面で対人審査が欠かせない外国人に少しでも人手を割くため、出入国の4割弱を占める日本人の出入国について大幅な合理化、IT導入による審査自動化(無人化ではなく、多数のゲートを1人で監視する)を進めてきた。

主要空港で「顔認証ゲート」を本格導入

出国時の顔認証ゲートの運用が始まった福岡空港=2018年11月28日、福岡市博多区

 2018年から羽田、成田、中部、関西、福岡の各国際空港では、日本人限定で事前登録不要の「顔認証ゲート」を出入国審査に本格導入したことがニュースとなった。パスポートの顔写真、ICチップに入っている顔写真のデータ、実際に撮った顔、を照合する。

 実は、日本人の審査の時間だけを計測すると、「顔認証ゲート」でも、秒単位ではあるが高度な経験則を駆使する審査官(有人)ブースのスピードには勝てない。しかしゲート自体を狭く作れてゲート数が増えるので、処理の総量が増え、結果として待ち時間の削減に資する、審査官も「顔認証ゲート」の監視と非常時対応だけで人手不足解消にもなる、という考え方になっている。この出入国管理のための「顔認証ゲート」は事前登録不要の気軽さもあって利用者が殺到し、出入国の円滑さを大筋向上させている(待たずに済む)場面が多いようだが、すでに連休最終日の到着便の集中時などには「顔認証ゲート」の待機列ができているケースもある。

指紋情報の事前登録がネックで普及しなかった「自動化ゲート」

 しかし実は、「顔認証ゲート」とは別物の、出入国管理「自動化ゲート」はすでに実用化から10年がたっている。自動化・無人化自体の取り組みは訪日外国人の増加(現在の3,000万人規模は想定外だったが)を見越して始めていたことであった。しかしこの「自動化ゲート」の利用者(日本在住の外国人も利用可能)は、「顔認証ゲート」導入前においても、日本人全体の1割にも満たない。2009年から実用化された「自動化ゲート」が本人証明の確実さを担保するために採用した方法は、事前登録した指紋情報(サーバーに保管。パスポートには書き込まれない。これとその場で撮影した指紋)と、顔認証(パスポートICチップ内の写真、その場で撮影した顔)の組み合わせであった。この指紋情報の事前登録が、普及しなかった最大の原因である。

 普及しやすさを犠牲にしてでもそうせざるを得なかった最大の理由は、日本国のパスポートには指紋情報が登録されていないからだ。顔認証技術の未熟さがハードルだったのではない。筆者が実際に民間企業のショールームで体験した2011年時点の「自動化ゲート」での顔認証技術は、

・・・ログインして読む
(残り:約1669文字/本文:約3382文字)