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長期の生産停止で最貧国への道を歩む

 発生が懸念される南海トラフ地震では、地震発生後20年間で1410兆円もの経済損失を生じ、日本は世界の最貧国になる可能性があるとの指摘が、昨年6月8日に土木学会から示された。その大きな原因は、わが国経済の根幹をなす製造業が国際競争力を失い、長期間にわたって生産が戻らないことにある。我が国製造業の強みは強固なサプライチェーンにある。自動車産業では、3万もの企業が3万の部品を作り1台の車を造っている。航空機産業ではその100倍のオーダーの部品を使う。このため、生産の継続のためには、サプライチェーンを構成するすべての企業が地震後も生産を続けることが必要となる。

遅れている中小企業の対策推進

 製造業が集積する中部地域では、南海トラフ地震対策を加速させているが、生産維持のための設備対策や製造を支える社会インフラの強化が進んでいない。何より、民間企業の対策強化が必要だが、中小企業の対策推進が遅れている。このため、一昨年2月、予算委員会の地方公聴会で、中部経済連合会の豊田鐵郎会長が、企業が自主的に行った防災・減災対策に対する税制優遇措置の導入を訴えた。

 中部経済連合会は、昨年6月に「地震災害から生産活動を守るための方策の提言」を、8月には各地の経済団体と共同して「国土強靭化税制の整備創設の提言」をまとめ、民間施設等の防災・減災に資する設備投資を促進する税制の整備・創設を求めた。こういった流れの中、12月にまとめられた国土強靭化基本計画の見直しでは、特に配慮すべき事項として、官民連携の促進と「民」主導の取組を活性化させる環境整備が加えられた。

 先月29日には、中小企業が防災設備に投資した場合に税を優遇する改正中小企業等経営強化法が成立した。中小企業が「事業継続力強化計画」を策定して経済産業相の認定を受ければ低金利融資などの支援を受けられ、また、防災・減災設備を新たに購入した場合には税負担を減らすことができる。

企業の力が及ばない社会インフラの強化

拡大shigemi okano/shutterstock.ccom
 一方、産業活動に不可欠な、道路、鉄道、港湾、電気、ガス、水道、情報通信などの社会インフラの強化には、企業の手が及ばない。物を造るには、電気、ガス、上下水道、工業用水道、情報通信などのライフラインの維持が不可欠であり、人員・部品・素材・製品・燃料などの輸送には、道路・鉄道・港湾などの交通・物流システムを確保しなければならない。しかし、その対策レベルの実態は意外と知られていない。

 その理由は、水の問題を例にすれば、上水道、下水道、簡易水道、工業用水、農業用水などで監督官庁や事業主体が異なること、最上流の水源やダムから利用者に至るまでに、国、都道府県、市町村、水資源機構、組合、など異なる組織が関わり、組織間の情報共有が不足していること、取水、集水、浄水、加圧、送水、配水池、配水、受水などプロセスが多いこと、財政難で早期の耐震化が困難なため情報公開が躊躇されがちなこと、利用者が行政に依存しがちなこと、などが挙げられる。


筆者

福和伸夫

福和伸夫(ふくわ・のぶお) 名古屋大学減災連携研究センター教授

1957年に名古屋に生まれ、81年に名古屋大学大学院を修了した後、10年間、民間建設会社にて耐震研究に従事、その後、名古屋大学に異動し、工学部助教授、同先端技術共同研究センター教授、環境学研究科教授を経て、2012年より現職。建築耐震工学や地震工学に関する教育・研究の傍ら、減災活動を実践している。とくに、南海トラフ地震などの巨大災害の軽減のため、地域の産・官・学・民がホンキになり、その総力を結集することで災害を克服するよう、減災連携研究センターの設立、減災館の建設、あいち・なごや強靭化共創センターの創設などに力を注いでいる。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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