2019年06月20日
「自閉症(正しくは「自閉症スペクトラム障害」=ASD。多様性と個別性があり幅広さをもつことを含意)学」(Autism Studiesオーティズム・スタディーズ)とは、哲学・精神医学・社会学・文学等々さまざまな学問からのアプローチの「束」を総称して執筆者たちが作り上げた概念である。その含意は、「障害の社会モデル」と呼ばれる、「impair=インペア(機能の障害)」と「disability=ディサビリティ(能力の障害)」を区別して、障害を後者の観点から捉えようとする見方から、自閉症も見ていこうとする点にある。
裸眼視力が低く(インペア)ても、眼鏡やコンタクトで一定視力が出れば社会的生活は可能(ディサビリティの解消)なのであり、「障害」とは、車椅子の人が移動できないようなバリアフリーの欠如(ディサビリティ)という社会的問題であるとするものである。つまり、自閉症はその発達特性が理解され、知覚過敏に対する配慮や、マルチタスク課題からの解放、作業の見える化等々のディサビリティの解消によって社会生活が生きやすくなる。「コミュニケーション能力の欠如した人」と見るのではなく、「別の方式によってアプローチできる人」と考えることを意味する。
野尻は、それは「定型発達の当事者研究の始まり」でもあるという(365p)。すなわち、「非定型発達」とされる「自閉症」が社会でどう生きづらいか(能力を発揮できない「ディサビリティ」の状態に置かれているか)を考えるということは、同時に私たち「定型発達」(=「ノーマル」)者が自明としている日常を、現象学的に言えばカッコにいれること、いちいち問い直してみるということを意味するからである。
例えば、社会学者の竹中均は、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください