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スマホ教育の今昔が大人に問う、大人自身の懺悔力

倉沢鉄也 日鉄総研研究主幹

教育用アプリを入れた実際のスマートフォンで、児童がネットのトラブルを疑似体験した=名古屋市中村区

 スマートフォン(以下、スマホ)の個人普及率はすでに7割を大きく超えた。スマホはフィーチャーフォン(以下、ガラケー)とは技術的に大きく異なり、事実上パソコンと同じかそれ以上の利便性と、その利便性と表裏一体のセキュリティー上の欠陥を持っている。そしてスマホ依存症は大人も子どもも国民的に“発症し”、“克服できておらず”、つい先般もスマホの長時間操作によりこれまで希少な症例だった「急性内斜視」が爆発的に増えているという眼科医からの声もあがっている(朝日新聞デジタル2019年6月13日「急性内斜視、若者に多発? スマホの長時間使用が影響か」など)。

 だからこそ、長年パソコンについて言われてきたセキュリティーリスク回避のための知識と、ガラケー時代から言われてきたマナーや依存症防止対策を融合させたスマホ教育が、子どもに対して必要な現状にある。上記の「普及率8割」は12歳以上が対象で、ここまでの普及率になれば一義的には義務教育課程(=15歳以下)で十分な訓練が行われるべきであるがここでは省略する。

 スマホの契約当事者である通信事業者(NTTドコモ等の通信キャリア)が、子どもに対してマナーやルールを教えるべき立場にあるという観点から、事業者各社のつくる啓発コンテンツも増えた。本稿ではこれを論じる。

ガラケー全盛期から何も変わっていない子ども向け啓発教育コンテンツ

 例えばNTTドコモの社内シンクタンクであるモバイル社会研究所が2018年10月版として公開しているコンテンツ「スマートフォンのマナーガイド」「トラブル事例に学ぶ スマートフォン安心ガイド」などでは、スマホ使用時のマナーへの気遣いをアンケートの数字で示しつつ、使用者である子ども自身の守るべきマナー、ルール、リスクを失敗事例集にして示している。それはそれで必要なことであるが、上記冊子類の中身をつぶさに見て、長年このケータイ利用者への啓発教育の中身を見てきた筆者には、スマホについて大人が子どもに啓発教育するアプローチの決定的な違いを感じずにはいられない。

 このシンクタンクが2006年、ガラケー全盛時にまとめた未公開バージョンが手元にある。まず、そこで指摘されているマナーやルールやリスクの課題論点自体は、2019年のそれとみごとなまでに同じだ。子ども向け啓発教育コンテンツなのだから変わる必要はない、という物言いは一理はある。しかし子ども向けのコンテンツが何も変わっていないということは、社会的に問題は何も解決していない、人は進化していない、ということでもある。

 ところが15年近い時間を隔てたこの2つのアウトプット群は、その物言いのアプローチがまったく違っている。2006年版は、ケータイでなぜ問題を起こしてしまうのかは、大の大人もまだわかっていないのだと告白した上で、大人自身がわかろうとすることを子どもにもわかってもらうための説明に力が入れられている。結果として、道具と人間、人間同士、所属組織と個人、の関係の変化を体系で見せて、そこに生じる問題を子どもにわかりやすく理解させようという意図がある。一方で2019年に掲載されている冊子は「みんながそうだから従おうね」というニュアンスが基調になっていて、どうも説得力より数字や事例のドキドキ感で子どもに自覚を促そうという意図に見える。

 ガラケーとスマホの機能面の違いはウイルス対策面など含めてもちろんあるが、

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