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ADHDの元教員で自閉っ子の母親が気付いたこと

インクルーシブ社会への道のりの第一歩は互いを知ることから

雨野千晴 ライター、講師、漫画家

障害を開示して職場復帰

 産前の職場では度重なる失敗で同僚の教員から信頼を失い、うつ状態で産休に入った。そんな私にとって、育休から復職することは恐怖でしかなかった。

 しかし、息子との日々のおかげで、できないだらけの自分を隠さずにもう一度やってみようと思えるようになった。そして復職後、職場の教員たちにも、子どもたちにも自分の苦手なことについて伝えて、様々な場面で助けてもらいながら教員として最後の1年を過ごすことができた。

雨野さん1拡大復職後に使用していた大事なもの入れ=雨野千晴さん提供
 毎日記名したポーチに貴重品を入れて首からぶら下げ、自分なりに工夫を重ねながら働いた。その年、充実した日々を過ごせたのは、もちろん周囲の理解があってのことだったが、自分ができない自分を責めるのでなく、どうやって工夫すればよいかを考えるようになったことも、大きかったのではないかと思う。その1年でたくさんの方から自信をもらった私は「得意を追求して仕事をしていきたい」と考えるようになり、退職してフリーランスになった。

 教員生活の中で出会った子どもたちには、一人ひとりとの思い出があるが、その中でもひときわ印象に残っているのは、ある年に受け持ったクラスの男の子だ。

 彼は、他害や飛び出しといった行動はなく、45分の授業を着席で過ごすことができた。しかし学習について、こちらが言っていることの理解が難しい場面もあった。意欲的に発表してくれる場面もあったが、会話のやり取りが成立していないことも。

 彼が心の底から「わかった!」「楽しい!」と思って学べた時間が、いったいどのくらいあっただろう。個別の課題を作成したこともあったが、自分の力不足で、毎時間そのように課題を調整し、フォローしていくということができなかった。45分の授業を1日4コマ、5コマ……。理解の難しい授業の中で、そこに居続けることに、彼の貴重な人生の時間が費やされた。私にできることがもっとあったはずだという思いが、今も残っている。

一人も見捨てない教育『学び合い』

 そんな思いを抱える中で出会ったのが、『学び合い』というインクルーシブ教育だ。これに関した書籍は現在50冊以上が出版されている。そのうちの一つを読み、障害の有無にかかわらずみんなが一緒に学べるという内容を読んだとき、私ができたはずのことが、ここにあるのかもしれないと感じた。そして、退職後すぐに、この教育を提唱している上越教育大学の西川純教授の研究室を訪問した。

 私が知りたいのはただ一点。「みんなで一緒に学べる」というのは、本当に「みんな」なのか、重度の障害を持つ子どもたちも含まれているのか、ということだった。

 この授業は、教員は課題を提示するのみで、子ども同士が教え合って課題達成を目指す。ルールは一つだけある。「一人も見捨てないで」課題達成を目指すというものだ。すなわち、障害のある子も、勉強が苦手な子も、「全員で」ということがポイントになる。障害のある子どもにとって、その課題のハードルが高すぎる場合にも、子どもたちが主体的に検討し、絶妙な設定の課題を考え出し、教員に提案したという事例を教えてもらった。

雨野さん1拡大雨野千晴さんが事務局を務める「『学び合い』神奈川の会」に上越教育大学の西川純教授を招いての講演会=雨野さん提供

 この教育は、弱者だけにメリットがあるわけでない。ビジネスシーンで取り上げられることの多い、「2・6・2の法則」がある。集団は上位層2割、中間層6割、下位層2割で構成されるという論だ。仮に下位層の2割がいなくなったとしても、残った集団の中でまた2・6・2という構成になる。つまり、障害のある人を切り捨てるような社会は、次の弱者も切り捨てる可能性があるということだ。

 トカゲのしっぽきりは永遠に終わらない。「いつ自分が切られるかわからない、そんな社会で、あなたは安心して暮らせますか?」ということなのだと思う。一人を切る集団は、その次の一人も切る集団となり得る。「一人も見捨てない」を目指すことは、みんなにとって安心な場所であることを意味するのだ。

 さらに、障害を含め、世の中にはいろいろな人がいて、自分の当たり前はその人にとっての当たり前ではないということ、その中で折り合いをつけていくことを子どものうちから知ることが、全ての人にとってのメリットとなる。そうやって学んでいく中で、子どもたちは仲間を作ることができる。一人ひとりの違いを知ることができる。それこそが社会に出た時、子どもたちの生きる力につながっていく。

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筆者

雨野千晴

雨野千晴(あめの・ちはる) ライター、講師、漫画家

1981年生まれ。北海道出身、神奈川県在住。元小学校教員。自閉症・児者親の会会員。36歳の時にADHD不注意優勢型の診断を受ける。うっかりな自分を楽しむ「うっかり女子会」(120人参加)のfacebookグループを運営。障害の有無に関わらずみんな違ってみんないいを体感できるお祭りイベント「あつぎごちゃまぜフェス」実行委員長。ブログ「うっかり女子でもちゃっかり生きる」。

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