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「最高の獣医さん」はどこにいるんだろう?

高度化する動物医療 ペットのための最良の選択とは何かを考えてみた

梶原葉月 Pet Lovers Meeting代表、立教大学社会福祉研究所研究員

 ペットを家族と思い、特別な、個別の関係性があるなら、病気になったときに可能な限りの治療をしたいと思うのは自然な感情だろう。

 私は猫のゴマをがんで亡くしてからの一時期、「最高の獣医さん」はどこにいるんだろう?と探し続けたことがある。

 ゴマは灰色の毛並みのタキシード・キャット。とても人懐こく私にとって特別にかわいい猫だった。だから、彼が悪性リンパ腫であることがわかった時には、本当にショックだったし、どんな治療でも受けさせたいと思ったのを覚えている。

梶原さん2拡大抗がん剤治療に1年半通ったゴマ=梶原葉月さん提供

抗がん剤治療1年半で幸せだったか?

 当時、ゴマはまだ5歳。大学病院で1年半、抗がん剤治療を受けた。毎回片道1時間もかかる距離を車で通院したのだが、彼がそれで幸せだったかは今でもわからない。

 治療費も相当かかった。3桁は軽く超えているだろう(万単位で)。同じ大学病院に通っていたある犬の飼い主は、治療中の愛犬を「ベンツくんて呼ぼうかしら」と言っていた。この子には、ベンツ1台分くらいは軽くかかっているからということだった。

 それはもう20年も前の話で、今では動物医療もさらに高度化・先進化し、その治療の費用はますます高額になってきている(例えば、公益社団法人日本獣医師会が2014年度に行った「家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査」)。

 早期のがんを見つけるPET検査もあるし、犬や猫から血液を採ってリンパ球などの免疫細胞を増やし、それを体内に戻す免疫細胞療法などもある。飼い主が望めば、そしてその治療にかける資源(費用と労力)を持っていれば、いくらでも病院を探し、高度な動物医療をペットに受けさせることができる時代になったと言えるだろう。

梶原さん2拡大一緒に外に出た時は塀の上がお気に入りだった=梶原葉月さん提供

自由診療だから高ければ良い医療とは言えない

 ゴマは、結局亡くなったけれど、私は次に別の猫が病気になったとき、とにかく最高の、ベストオブザベストの、トップ中のトップの獣医さんに連れて行きたかった。

 高度医療を提供してくれるからと言って、それだけで満点とは言えない。動物を大事にしてくれるか、飼い主への対応はどうか?

 ネットで高度動物医療を提供する病院を探すことはもちろん、行ける場所なら病院を見に行って観察してみた。

 どこかに、理想の獣医さんがいるはずだと信じていた……。

 私の運営するペットロスを支援する自助グループ「Pet Lovers Meeting」(PLM)のミーティングの参加者にも、高度動物医療を提供する病院で手術や様々な治療を受けた人たちが多い。それはすべて「何とか治せないか」「少しでも長くこの子(ペット)と一緒にいたい」と願ってやる治療だ。

 しかし、多くの人の話を聞けば聞くほど、「いい獣医さん」さんは遠のいていった。

 私たちは、価格が高ければより高度な医療を提供してもらえる、高ければそれに見合った価値がある、と漠然と思いがちだ。本当は動物病院の価格は自由診療だから、土地建物、あるいは賃貸費、施設費、人件費などで大きく左右される。必ずしも高いから高度な医療とは保証されていない。

 高級なブランド品の品質はいいのかもしれない、と思うのと同じように、高額な動物医療がいい医療、と思ってしまうのは、それが「消費行動」でもあるから逃れられない面もある。しかし、高額になる侵襲的な治療をしたからといって、必ずそれが動物のためになるかわからない。これは重要なポイントだと思う。

 人間が高額であまり効果が期待できないような治療をするのは、自分の意思であるけれど、動物はその治療について同意できない。それどころか、精いっぱい抵抗して嫌がることもある。

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筆者

梶原葉月

梶原葉月(かじわら・はづき) Pet Lovers Meeting代表、立教大学社会福祉研究所研究員

1964年東京都生まれ。89年より小説家、ジャーナリスト。99年からペットを亡くした飼い主のための自助グループ「Pet Lovers Meeting」代表。2018年、立教大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。近著『災害とコンパニオンアニマルの社会学:批判的実在論とHuman-Animal Studiesで読み解く東日本大震災』。横浜国立大学非常勤教員、日本獣医生命科学大学非常勤講師。

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