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「母子保健よ、お前もか?」

札幌市の詩梨(ことり)ちゃん死亡事件、救えたはずの命

大久保真紀 朝日新聞編集委員(社会担当)

池田詩梨ちゃんが住んでいたマンション前には花や菓子が置かれている。女性が訪れ、涙を流していた=6月12日、札幌市中央区

 「母子保健よ、お前もか?」

 児童福祉に詳しい専門家が、今月発覚した札幌市の池田詩梨(ことり)ちゃん(2)が衰弱死した事件の感想を漏らしました。

 児童相談所と警察の連携の悪さや児童相談所の判断ミスが明らかになっていますが、それ以前の、母子保健事業の関係者の危機感のなさや児童相談所の子どもに関する基礎知識がないことを問題視する声が上がっています。

 事件が明らかになったのは、6月5日午前5時ごろ、飲食店従業員の母親(21)が詩梨ちゃんの体調が悪いと119番通報したのがきっかけです。詩梨ちゃんは搬送先の病院で死亡しました。体には複数のあざがあり、死因は衰弱死だったそうです。これを受け、北海道警が母親と母親の交際相手の男(24)を詩梨ちゃんへの傷害容疑で逮捕しました。頭や顔などに暴行を加えたという容疑でした。

事件の経緯

 厚生労働省や報道などからの情報を総合すると、関係機関の対応や詩梨ちゃんをめぐる経緯は以下の通りです。

2017年
4月19日 東区保健センターで4カ月健診(体重5.5キロ、身長58.4センチ)。「体が小さいので2カ月後に経過観察」と告げられる
6月 再受診せず
10月 10カ月健診に来ず
2018年
6月14日 母親が祖母を伴い、保健センターで詩梨ちゃんの1歳6カ月健診を受診(体重6.75キロ=4~5カ月レベル、身長68センチ=7~8カ月レベル)。身長体重が標準を大きく下回っているため、病気の可能性があるとして病院受診を勧める。母親は「食事はよく食べる。小柄なのは気になっていた」と発言。「3カ月後の経過観察」を告げられる
9月 再受診せず
9月28日 市民から児童相談所に虐待通告。「母が子どもを託児所に預けっぱなしで育児放棄が疑われる」。児童相談所が家庭訪問して、母子に面会。あざや傷がないので虐待ではないと判断。母方祖母にも連絡し、定期的な往来を確認した
11月 6日 東区保健センターが母親に電話をするが、応答なし
11月19日 東区保健センターが母親に電話をするが、応答なし
12月13日 東区保健センターが母親に電話をするが、応答なし
12月19日 東区保健センターが家庭訪問するが、会えず
12月20日 東区保健センターが母親に対して連絡をくれるよう手紙を郵送
2019年
1月9日 東区保健センターが母親に電話するが、応答なし
2、3月ごろ 母親が詩梨ちゃんを連れて、東区から中央区に転居(このころから男と交際か)
4月5日 児童相談所に近隣から通告。昼夜を問わず、子どもの泣き叫ぶ声が聞こえ、心配」。児童相談所が母親に電話をするが、応答なし。家庭訪問もしたが、不在。連絡してくれるように手紙を置いてくる。東区保健センターは児童相談所からの照会で、転居を認識。健診データは転居先の中央区には移管されていなかった
4月8日 児童相談所が家庭訪問するが、会えず。連絡してくれるよう手紙を置いてくる
4月9日 児童相談所が電話をしたところ、折り返し母親から電話があった。「交際相手の家にいたため不在だった」。詩梨ちゃんの安全確認を依頼したところ、母親は了承
4月22日 母親から連絡がないため、児童相談所が家庭訪問したが、会えず。連絡してくれるよう手紙を置いてくる
4月23日 児童相談所が母親に電話をするが、応答なし
4月24日 児童相談所が母親に電話をするが、応答なし
5月8日 児童相談所が母親に電話をするが、応答なし
5月12日 警察に、近隣から子どもの泣き声の110番通報。警察が自宅を訪れるが、会えず
5月13日 警察から児童相談所に照会があり、情報を提供。児童相談所が母親に電話をするが、応答なし。警察が母親に電話連絡するも、面会・協力を拒否される。夜になって警察が児童相談所に虐待通告。児童相談所による強制的方法によることも含めた直接の安全確認を依頼したが、児童相談所は「職員の態勢が整わず困難」と断る
5月14日 警察から児童相談所に、警察が訪問可能になった場合に児童相談所の同行を依頼。その後、警察が母親と連絡をとったところ、母親が15日の訪問を了承。警察から児童相談所に同行を求めたが、「母親が児童相談所の同行を嫌がる可能性が高い」という情報もあるため、双方で協議し、児童相談所は同行せず、警察が母親と面会した後に、児童相談所が改めて母親に連絡して面会することと、警察は訪問時の状況を児童相談所に報告することにする
5月15日 警察が母子と面会、傷を確認。「緊急に保護する必要のある負傷は認められない」と児童相談所に連絡し、母親が発達相談の意向があるとの情報を伝える。児童相談所は虐待事実はなしと判断、発達相談として支援することになった
5月17日 児童相談所が母親に電話するが、応答なし
5月22日 児童相談所が母親に電話するが、応答なし
6月4日 児童相談所が家庭訪問するが、会えず。連絡を依頼する手紙を置いてくる
6月5日 母親が「ふろからあがると、子どもがうつぶせで倒れ意識がない」と119番通報し、詩梨ちゃんが救急搬送される。病院先で死亡を確認

札幌市は要対協の対象とせず

 厚労省によると、母親は未成年のときに妊娠、シングルマザーとして出産をしており、札幌市としては「特定妊婦」という意識はもっていたそうです。特定妊婦というのは、若年妊娠やシングルマザー、母親に障害があるなど支援が必要と考えられる妊婦で、通常は自治体の保健センターや児童相談所、保育園、学校など関係機関で作る要保護児童対策地域協議会(要対協)の対象となります。多機関で見守り、必要な支援をしていくためです。それが虐待の予防につながるという考えからです。ところが、札幌市はなぜか、詩梨ちゃんと母親を要対協の対象とはしていませんでした。

 詩梨ちゃんが行政とかかわるのは、生後4カ月のときに、東区保健センターで4カ月健診を受けにきたのが始まりです。このときに、東区保健センターは詩梨ちゃんの体が小さいとして、母親に2カ月後に経過観察に来るように告げます。しかし、母親は2カ月後に来ません。さらに、10カ月健診にも来ませんでした。

 本来なら

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