田中聡子(たなか・さとこ) 朝日新聞オピニオン編集部記者
2006年、朝日新聞社入社。盛岡総局、甲府総局、東京本社地域報道部、文化くらし報道部を経て、20年からオピニオン編集部。PTA、二分の一成人式などの教育現場の問題のほか、自治会など地域コミュニティーへの動員などについて取材している。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
記者たちがやむにやまれず企画した「PTAフォーラム」から聞こえてきたもの……
第一部のパネルディスカッションのパネリストは、一保護者としてPTAを変えようと活動してきた東京都世田谷区の石原慎子さん、PTAを「学校のお手伝い」から「保護者と学校の意見交換の場」に変えた神戸市立桃山台中学校長の福本靖さん、PTAの「保護者の負担軽減」をマニフェストに盛り込んで昨秋の市長選を制した兵庫県川西市長の越田謙治郎さんの3人。3人とも、私たち記者有志がPTAの取材をする中で出会った人たちだ。
最初にマイクを持った石原さんは、「中から変えようとしてうまくいかず、対外的な活動や情報発信をしています」と静かに語り始めた。本部役員も務めたが、PTAを変えるのは難しかったこと。署名活動やツイッター、ブログでの情報発信といった外からの改革にも取り組んできたこと。昨夏、がんの「ステージ4」と診断され、今年2月にPTAを退会したことも明らかにした。
退会の経緯について、私は以前に聞いたことがあった。治療などの影響で本部役員として改革を進めることが困難になり、ならばPTAの会員であり続けることで組織に「加担」したくないと、退会を決断したという。石原さんはそのとき、「『社会をよりよいものにするにはどうしたらいいのか』を自分たちの頭で考える『民主主義の訓練の場』にPTAはなれるはずです」とも話していた。石原さんにとって、壇上で参加者に語りかけている瞬間も、「民主主義の訓練の場」に違いなかった。
PTA界隈で「改革派校長」として知られる福本さんの話は明快だった。主張はただ一つ。保護者は学校運営に欠かせない、ということ。福本さんのいう「学校運営」とは、たとえば運動会の来賓へのお茶出しや自治会とのお付き合いの飲み会、なんかを意味していない。それはズバリ、保護者と校長らとの意見交換だ。
「別にPTA改革を一生懸命やったわけではないんです」と言って福本さんが紹介したのは、PTA役員50~60人が校長と教頭に何を言ってもいい会である「運営委員会」。多くの親にとって、来賓へのお茶出しには「やらされてる感」しかない。でも、自分の子どもの教育環境への関心は大きい。少しでも学校に意見すれば「モンスターペアレント」扱いされかねない風潮のなか、校長や教頭に直接意見できる場を有意義と感じる人は少なくないだろう。
「PTAのあり方を変えるのではなく、学校のあり方を変えることが、PTA改革の入り口。PTAという名前でなくても、保護者のみなさんが学校運営に参加するという観点からPTAを変えてほしい」。そう訴えて締めくくった。