東京五輪へ明確になった課題と収穫
2019年06月28日
女子サッカーW杯フランス大会の日本対オランダ戦(6月25日、レンヌ)は終盤を迎え、日本の速いパスとコンビネーション、小柄な選手たちのスピードから生まれる攻撃に魅了されたファンから、ワンプレーごとに拍手が湧いた。後半27分、高倉麻子監督は最初の交代カードに、ケガで調整が遅れていた籾木結花(もみき、日テレ)をようやく今大会初めてピッチに送り出し、勝負をかける。
籾木の個性的なリズムに、疲労していたオランダは翻弄され、監督の狙い通り直後から日本の猛攻が始まった。まず岩渕真奈がサイドを切り込んでシュートするがサイドネットに。菅澤優衣香はチャンスにヘディングするが阻まれ、杉田妃和(ひな)が左足で強烈なミドルシュートを狙ったが、これはバーを直撃する。籾木も直後、左足で絶好機にシュートを放ち、GKがパンチングで何とか弾く。三浦成美は右足で、またFW2人がゴール前で崩し、菅澤から岩渕がシュートするがこれもバーを越える。待望の「ジョーカー」投入からわずか8分間にシュート6本の猛攻も結局決め切れず、オランダに43分、キャプテン・熊谷紗希のハンドからPKで勝ち越されてしまった。
PKの判定について、熊谷は「みんなに申し訳ない。ただただ悔しいですし、受け入れるしかない」と目を腫らしていたが、不運といえるPKより前にこれだけのシュートチャンス(後半だけで10本)を外せばサッカーの神様の機嫌も損ねるだろう。
2011年ドイツ大会優勝、15年カナダ大会準優勝と2大会連続で決勝に進出したが、今大会は16強に終わり、3大会連続でW杯に出場した岩渕は試合後、「3大会に出させてもらい、自分がチームを引っ張ると強い気持ちでやってきましたが、澤さん(穂希=11年キャプテン)、宮間さん(あや=15年キャプテン)に近づこうと思ったけれどまだダメでした」と、大粒の涙をこぼしながら唇をかみしめた。
2016年、リオデジャネイロ五輪出場権を逸してから3年、五輪に出場できず国際舞台での真剣勝負に臨めなかった。アジアカップ、アジア大会と大陸でのタイトルは保持したものの、高倉監督の目指す「日本らしいサッカー」は、強豪オランダとの8強をかけた厳しい戦いの、しかも終盤になって、選手たちがやっと表現でき、その感覚を共有できたのかもしれない。3年間の試合パターンでも、逆転、延長、PK勝ちなど公式戦で経験していなかったのも、こうした世界大会で勝ち切るレベルにはまだ達していない理由だろう。
田嶋幸三・日本サッカー協会会長は試合後、「このサッカーでもっともっと精度を高めて行かなければならないが、東京につながるサッカーは見せてくれた」と、高倉監督の続投を含め一定の評価はした。しかし、大会の詳細についての判断は、女子委員会(今井純子委員長)の総括レポートを待って検討したい、と慎重な姿勢も合わせて示した。
オランダ戦前のアップ中には、今大会のなでしこを象徴するようなシーンがあった。
サブ組でボールを回していた三宅史織が接触で右のホホを裂傷し、血を流しながら治療のためピッチを出た。直後には先発の市瀬菜々が右肩を脱臼したようになり、固定してやはり治療に。市瀬は試合中にも同様の症状を訴えている。突発的なアクシデントとはいえ、アップ中にもケガの治療に向かったシーンは、5月22日に始まったW杯へのトレーニングキャンプから、負傷を抱えて合流し、別メニューをこなすケガ人が多かった今大会を象徴するようだった。
日本を出発後、FWの植木理子が離脱。監督が決勝トーナメントからの厳しいせめぎ合いで起用を考えていたベテラン、宇津木瑠美もトレーニング中に負傷した。なでしこリーグで、常日頃から女子選手のコンディションやケアに万全の態勢が敷かれなければ、
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